Sランク冒険者⑦

 長話が過ぎたせいか、ミハイルの顔には疲労の色が見えた。それを見たレオンは申し訳なさそうに伏し目がちになる。


「外から戻ったばかりで疲れているだろうに、色々と質問ばかりしてすまなかったな。私もやることがあるため、これで失礼させてもらう」

「谷の封鎖ですか?」

「その通りだ。それと私たちも宿に部屋を取ろうと思う。もし、Sランクの冒険者が来たら教えてくれないか?私たちは見た目だけでは、誰がSランクの冒険者か分からないのでな」

「構いませんよ。クライツェルさんもこの宿に泊まるでしょうしね。でも争い事は無しにしてください。僕も何度かお会いしていますが、クライツェルさんは悪い人ではありませんから……」


 事を荒立てたくないのはレオンも同じである。まして相手は知名度の高いSランクの冒険者。揉め事を起こそうものなら直ぐにでも街中に広まるだろう。それはレオンの望むところではない。

 切実に訴えるミハイルにレオンも同意する。


「勿論だ。私も手荒な真似をするつもりはない。どのような人物か確かめたいだけだからな。私たちの部屋の場所は後で妻に連絡させよう。Sランクの冒険者が来たら知らせを頼むぞ」

「分かりました。レオンさんも気をつけてください。谷の中にはベルカナンの偵察隊も入っています。姿を見られたら不味いですからね」

「うむ、忠告感謝する。ではまたな」


 レオンが踵を返して部屋を立ち去ると、ミハイルは気の抜けたようにベッドに倒れ込んだ。

 その様子にベティが、「ご苦労さん」と、労いの言葉を掛ける。ミハイルはその言葉に笑顔で返すとクライツェルのことを思い出していた。

 クライツェルは人当たりの良い好青年だ。だがパーティーの中には一癖も二癖もあるメンバーもいる。ミハイルが初めて会った時には実力を見るためだと、背後からナイフを突きつけられたこともあった。ミハイルは当時のことを思い出して眉間に皺を寄せる。


(クライツェルさんに会ったらレオンさんに失礼なことをしないように伝えないと……。僕の時みたいに実力を試すなんて馬鹿な真似をしたらどうなることか……)


 ミハイルもレオンの人となりは知っているつもりだ。人外の力を持ち偉そうな口調で話すが、基本的には誰にでも優しい人物――化物――だ。

 だがその化物が一度牙を剥いたらどうなるか。そんなことは火を見るより明らかである。ミハイルはその光景を思い浮かべて深い溜め息を漏らす。

 ベルカナンが滅びたらクライツェルさんのせいだな。と……

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