Sランク冒険者⑥

 レオンは大きな溜め息を漏らす。そんな便利な鳥がいるなら初めから使えよと――


「まったく……、ベルカナンが包囲された時に伝令鳥は使えなかったのか?そうすれば村の被害は最小限に抑えられたものを……」


 レオンが愚痴を零すのも無理はないだろう。ミハイルもそれが出来るならと表情を曇らせた。伝令鳥が飛ばされていたら……。それなら確かに村の被害は少なく済んだのかもしれない。しかし、伝令鳥の数には限りがある。全ての街に伝令鳥を置けるほど、数に余裕があるわけではなかった。


「ロック鳥は数が限られていて希少な存在なんです。繁殖も難しため、アスタエル王国では王都に五羽しかいません。以前には他の鳥が伝令鳥に成りうるか試したこともあるそうですが、目的地を見失ったり、魔物に襲われたりと、散々な結果に終わったそうです」


 話を聞いていたレオンは、口元に手を当て考えを纏めるため視線を落とした。

 他の鳥が魔物に襲われるのだ。ロック鳥も魔物に襲われて然るべきである。にも関わらず、今でも伝令鳥として活躍しているのは不自然ではなかろうか――

 辻褄が合わないのでは?と、レオンは怪訝そうにミハイルに視線を向ける。


「ロック鳥も魔物に襲われるのは変わらんだろ?何故無事でいられるのだ」

「ロック鳥は生態系の頂点にいます。魔物を襲うことはあっても襲われることはありません。体長は二十メートル以上もあり、飛行速度は怪鳥の中でも群を抜いています。空中でロック鳥と渡り合えるのはドラゴンくらいのものです」


(はぁ?体長二十メートルだと?それはもう鳥じゃない、間違いなく魔物だろ?それを鳥と定義するのは可笑しい気がするぞ……)


 それはレイドボスではないのかとレオンは首を傾げる。レオンも鳥のペットを飼っているが、その大きさはロック鳥と比較すると雲泥の差だ。


「私も可愛らしい鳥を飼っているが、ロック鳥はまるで別物だな。同じ鳥とは思えん大きさだ」

「ロック鳥は特別ですから。レオンさんはどんな鳥を飼っているんですか?」

「うむ、王神鳥キングガルーダを飼っている。ピィーピィー鳴いて可愛いものだそ?鳥ならその他にも不死鳥フェニックス雷鳥サンダーバードも飼っているな。そう言えば、ここ最近ペットたちとも合っていないな――」


 レオンは懐かしむよう語りだすが、ミハイルらは伝説の鳥の名に目を白黒させていた。

 通常ではそんな鳥を飼うなど有り得ないこと。だが、目の前にいる相手は常識では測れない存在である。不死鳥フェニックス雷鳥サンダーバードも気になるところではあるが、神話や御伽噺でよく耳にする神鳥ガルーダのことが、ミハイルは一番気になっていた。


「レオンさん、その王神鳥キングガルーダとはどのような鳥なのですか?色や姿を教えて欲しいのですが……」

「構わんぞ?色は金と白、姿は――確かこの国にも似た鳥がいたな。名前はファルコンだったか?それと同じ様な感じだ。生まれて間もないため今は小さいが、きっと将来は大きくなるに違いない」

「金と白ですか……」


 ミハイルの知る限り、金と白で彩られた鳥は神鳥ガルーダしか存在しない。この時点で神鳥ガルーダであることは間違いないだろう。しかも、唯の神鳥ガルーダではない。何故か頭にキングが付いている。もはやレオンであれば何を飼っていても不思議ではないが、それでもミハイルは溜め息を漏らさずにはいられなかった。

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