Sランク冒険者①

 レオンはニナたちがそんな話をしているとは知る由もない。

 ニナを雇えないことは残念ではあるが、今はまだ戦略が必要なほど切迫しているわけではなかった。本当に知恵者が必要になるのはプレイヤーが徒党を組んで敵に回った時である。戦闘にいて数は驚異だ。強力な範囲魔法で簡単に倒せるなら問題はないが、レベル80以上ともなると、そう簡単にはいかない。ステータスもそこそこ高い上、防御魔法やスキルで身を守ることは容易に予想できる。攻撃に関して言うなら数はそのまま手数に繋がる。一撃のダメージは軽微であっても、手数の多さで削り切られるのは目に見えていた。

 尤も、それは従者の話であり、レオンにダメージが通るのかははなはだ疑問が残るのだが……

 レオンは一先ずニナのことを諦めると、先程の会話を思い返していた。

 やはり気になるのは王都から派遣された冒険者の存在である。獣人の国、レッドリストへの潜入。レオンの知る限り、そんな危険な依頼を任せられる冒険者は数える程しかいない。

 レオンは部屋の壁に背を凭れながら、以前ニナから聞いた、この世界の強者の情報を思い出していた。その中にはSランクの冒険者も含まれており、そしてアスタエル王国にもSランクの冒険者は存在する。


(確か王都にはSランクの冒険者パーティーが二組みいたな……。動いたのはその内の一組み、若しくは両方か――)


 レオンが思考を巡らせていると、入口の方からベイクの軽薄な声が聞こえてきた。

 依頼を終えてギルドへ報告に来たのだろう。レオンを見つけるや、大きな革袋を仲間に預けて笑顔で近づいてくる。


「ようレオン、久し振りだな。今までどうしてたんだ?フィーアちゃんに聞いても何も答えてくれないしよ。ミハイルやガストンも心配してたぞ?」

「最近寒くなってきたからな。少し体調を崩して寝込んでいたのだ。それにしても意外だな、お前が私の心配をするとは」

「俺はフィーアちゃんの悲しむ顔を見たくないだけだよ。まぁ、お前がいなくなったら、真っ先に口説き落とすけどな。そんときは子供の面倒も俺が責任を持って見てやるよ」

「ならば、お前よりも長生きをしないとな」


 レオンとベイクは冗談交じりの会話を交わしながら、久し振りの再開に握手を交わして笑い合う。


「ところでベイク。ミハイルとガストンは元気にしているのか?」

「ミハイルは数日前にベルカナンに向かったぜ?何でも助け出された村人たちと話をしたいんだとよ。ガストンの奴は依頼で商隊の護衛をしてるらしい。当分の間は帰ってこないだろうな」

「そうか……」


(ミハイルたちはベルカナンに行ったのか……。殺された村人たちのことを、まだ気に病んでいるのかもしれないな……)


 レオンはSランクの冒険者のことを尋ねるか迷い――そしてやめた。

 いつも飄々としているベイクではあるが、これで中々鋭い感を持っている。下手に勘繰られるのはレオンにとっても好ましくない。


(念のため国境の警備を厳重にさせるか……。それにSランクの冒険者にも一度は会っておきたい。明日はベルカナンに行ってみるのも悪くないな……)


 二人は数分の会話を交わした後、レオンは早々に屋敷への帰路に着いた。

 レオンが立ち去った後の冒険者ギルドでは、レオンが振られた話題で持ち切りになる。その話を聞いたベイクが、腹を抱えて笑ったのは言うまでもないだろう……



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