Sランク冒険者②


 ベルカナンの繁華街を二人の男女が歩いていた。

 二人とも旅用のマントを羽織り、厚手の革のブーツを履いている。物珍しそうに周囲を眺める様子から、この街の住民でないことが一目で分かる。

 女は緊張感のない街の様子に顔を顰めながら言葉を放った。


「なんて愚かな……」

「そう言うなフィーア。攫われた村人が帰って来たのだ。お祭り騒ぎも仕方ないだろ?」

「も、申し訳ございません。レオン様の仰る通りでございます」

「別に謝らずともよい。それより宿に急ごう、幸いこの街には宿が一つしかない。そこにミハイルたちもいるはずだ」

「はっ!」


 二人の男女――レオンとフィーア――は、会話ともいえない言葉を交わしながら歩みを進めていた。

 一ヶ月振りに見たベルカナンの街は、以前とは比較にならないほど活気に溢れている。

 以前は物流が止まり、多くの店が閉まっていたのだが、今は軒先に青果物が並び、客を呼び込む声が飛び交っていた。

 酒場では兵士がたむろしながら楽しそうに酒を呷り、中には歌いだす者までいる。攫われた村人が帰ってきたこともあり、ベルカナンの街は半ばお祭り騒ぎの様相を呈していた。


 宿に入ると以前と同じ女性がカウンターに立ち、客の対応に追われている。街に一つしかない宿だけあり、本来空いているはずの昼の時間帯でも客は多いようだ。

 レオンがカウンターに近づくと、宿の女性が懐かしそうに口を開いた。


「いらっしゃいませレオンさん」


 この世界の宿の従業員は、客の顔と名前を覚えることも仕事の一つ。それでも一度しか泊まったことのない客も覚えるのかと、レオンは感心するように声を上げた。 


「宿に泊まったのは一度きりだぞ?よく私のことを覚えていたな」

「サラマンダーを連れたお客様を忘れたりはしませんよ。それに、黒髪で黒い瞳の方はそうはいらっしゃいませんからね。今日はお泊りですか?」

「いや、今日はミハイルに会いに来たのだ。この宿に泊まっていると思うのだが……」

「ミハイルさんなら今は外出して――あら?ちょうど戻られたみたいですよ」


 振り返るとミハイルたちは入口の扉を通り抜け、宿のラウンジで足を止めていた。ミハイルはレオンを見るや一瞬驚いたように瞳を見開くも、直ぐに笑みを浮かべて駆け寄ってくる。


「レオンさん!」

「久しいなミハイル。元気そうで何よりだ」

「レオンさんはどうしてここに?いえ、それはどうでもいいことですね。僕もちょうどレオンさんにお会いしたいと思っていたところです。少しお時間よろしいですか?」

「うむ、構わんとも。では、そこのラウンジで話をするか?」

「人に聞かれたら困る話もありますので……。良かったら僕らの部屋で話しませんか?」


 レオンが頷き返すと、ミハイルは宿の女性から部屋の鍵を受け取り、レオンとフィーアを部屋へと案内する。

 通された部屋は二段ベッドが二つ置いてある四人部屋。片側のベッドにミハイルたちが並んで腰を落とすと、その向かいのベッドにレオンとフィーアも腰を落とす。

 ミハイルは話し辛そうに顔を伏せては上げてを数回繰り返し、そしてレオンの顔を見据えて重い口を開いた。




 

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