侵攻㉝

 ガルムやヴァン、供回りの獣人たちは目を白黒させる。

 つい先ほどまで牧場にいたにも関わらず、いま目の前にあるのは間違いなくガルムの居城。その証拠に城の前では、サラマンダーが寝息を立てて気持ちよさうに横になっている。

 ガルムとヴァンの二人は、昨日のレオンの言葉を思い出し、口々に呟いていた。


「これが転移というやつか……」

「レオン、初めからこの魔法を使えなかったのか?そうすれば態々わざわざ走る苦労もなかったものを……」

「転移の魔法は行った場所にしか移動できないからな。ヴァンの気持ちも分かるが、朝の時点では魔法での移動は不可能だ」

「そうか、その転移の魔法とやらも万能ではないということか……」


 瞬間移動は神にも等しい力ではあるが、それにも限界があることにヴァンは少しほっとしていた。何処にでも移動が可能であるなら、レオンを神と認めざるを得ないのだから……


 ガルムらに気付いた城の獣人たちは、主を出迎えるべく次々と集まってくる。周囲は騒がしくなり、遂にはサラマンダーも目を覚まして辺りを見渡していた。

 レオンの姿を見つけると嬉しそうに擦り寄り甘えてくる。


「ん?どうしたゆたんぽ。お腹が空いたのか?」

「きゅきゅう」


 サラマンダーは首をぶんぶん縦に振って頷く仕草をして見せた。その激しい動きから余程お腹が空いていたのかもしれない。レオンはインベントリからドラゴンの肉を選択すると、サラマンダーの目の前に取り出した。

 巨大な肉の塊が、ドン!と、重低音を響かせながら地面に出現する。

 突然の出来事に周囲の獣人が目を見張る中、サラマンダーは大きな口を開け肉の塊に齧り付いた。

 美味しそうに肉を頬張るサラマンダーを見て、レオンが満足気に頷いていると、ヴァンが鼻を鳴らして興味深げに肉の匂いを嗅ぎ分けていた。

 そして何かを感じ取ったのか、瞳を見開きレオンに詰め寄ってくる。


「お、おいレオン。これはもしかしてドラゴンの肉じゃないのか?」

「その通りだ。匂いで分かるのか?流石は狼族、鼻が利くんだな」

「どこから出したのかは知らないが、サラマンダーにドラゴンの肉を食べさせるのか?勿体無いだろ?」


 人の背丈もある肉の塊を何処から出したかなど、もはやそんなことは問題ではない。ヴァンは口から涎を垂らしながら、肉を頬張るサラマンダーを羨ましそうに見つめていた。

 なまじ鼻が利くため肉の美味しさも分かるのだろう。他の狼族もヴァン同様、口から涎を垂らしながら物欲しそうに眺めている。

 ガルムや獅子族もドラゴンの肉と聞いて、肉の塊に目が釘付けになっていた。


「何だ?お前たちも食べたいのか?」


 レオンはそう言うと、ドラゴンの肉を獣人たちのど真ん中に取り出した。


「ヴァン、この肉は牧場の案内をしてくれた礼だ。みんなで食べてくれ」

「も、貰ってもいいのか?」

「当然だ。遠慮は要らない」

「そ、そうか、なら遠慮なく貰うぞ……」


 ヴァンは腰からナイフを抜くと、巨大な肉の塊に突き刺し一口大に切り分けた。一センチ程の厚さに切られた肉は、するりとヴァンの口の中へ消えていく。

 肉の旨みが口に広がりヴァンは瞳を輝かせる。そのあまりの美味しさに思わず声を上げていた。


「うめぇええええ!なんだこりゃ!今まで食べたどのドラゴンの肉よりもうめぇ!」


 それを聞いたガルムが次に手を伸ばす。同じように肉を切り分け口に頬張ると。


「美味い!こんな美味い肉は食べたことがないぞ!」

「喜んでもらえたようで何よりだ」

「おいレオン。祭りの時にドラゴンの肉を差し入れると言っていたな?この肉を差し入れると言っていたのか?」

「まぁ、色々あるが基本的にはそうだな」

「そうか……、お前とはこれからも上手くやっていけそうだ」


 ガルムは牙を覗かせながら、ニカッと満面の笑みを浮かべていた。

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