盗賊④
レオンは重い足取りで天幕を出る。
軽い気持ちでこの依頼を受けたことを今では少し後悔していた。
上空を見上げると空には厚い雲が掛かり、星の一つも見ることができない。まるで自分の心を映し出しているかのようであった。
(はぁ……、気が重い。適当に盗賊を殺して終わりの筈だったのに……)
レオンは気を取り直し次の天幕に足を踏み入れた。
広い天幕の中にはランプが一つ吊るされているだけ、薄暗い部屋には三台のベッドが置かれ、その上には裸の男たちの死体が転がっていた。
汗と体臭、体液が混じりあった
レオンは不快な臭いに眉を顰めるも、気配の感じる方へと歩みを進めた。
ベッドにはやせ細った女性が繋がれ、虚ろな瞳で呆然と天井を見上げている。僅かに呼気が聞こえるため生きてはいるのだろう。だが、レオンが近づいても全く反応を示さない。
レオンが裸の男たちをベッドから投げ下ろすと、女性の傷ついた体が顕になる。
殴られた跡は勿論のこと、中には関節があらぬ方向に曲がっている女性までいた。
(衰弱が激しい。傷も酷い……、なによりも――)
レオンは女性の膨らんだお腹を見て視線を逸らした。
三人の女性のうち、二人のお腹は膨らみ間違いなく妊娠している。
しかも体には発疹が出ており、何らかの病気の疑いもあった。
(妊娠に病気、それでも男たちの慰みものか。まるで使い捨ての道具だな……。胸糞悪い――)
レオンは女性に向けて手を翳した。
「[
体の傷は瞬く間になくなり、体にあった発疹も消えていく。
だが幾ら傷を治したところで、衰弱した体が元に戻るわけではない。
傷や発疹がなくなったことで、やせ細ったガリガリの体がより痛々しく見える。
体に付着した体液や汚れも鮮明になり、レオンは再び手を翳した。
「体も綺麗にしないとな――[
女性たちの体が綺麗になるのを確認すると、レオンは女性を繋いでいたロープを切る。
インベントリから手頃な外套を取り出し、女性たちの体を隠すように被せた。
だが動けるはずの女性は誰一人として動かない。みな人形のように虚ろな瞳で天井を見つめていた。
レオンは身を屈めると、一人ずつ優しい口調で話し掛けた。
「お前たちを助けに来た。話は出来るか?」
「…………」
女性の瞳が僅かに動きレオンを視界に収める。
だが、微かに聞こえてきた言葉は「死にたい」そして「殺して」、レオンは頷くことしかできなかった。
辛い記憶を背負いながら生きろとは言えない。
身寄りがなければ、これから生きていくのも困難だろう。
レオンは静かにその場を離れて次の女性の元へと向かう。身を屈めて同じように話し掛けるも、返ってくる言葉は同じであった。
三人の女性から話しを聞いたレオンは深い溜息を漏らす。
誰一人として生きたいと言った女性はいない。三人は申し合わせたかのように自らの死を望んでいた。
中には両親の元に早く逝きたいと涙ながらに訴える女性までいる。
レオンは女性たちを一度見渡すと、穏やかな口調で最後に微笑みかけた。
「生まれ変わったら、今度は幸せな人生が送れるといいな――[
三人の瞳からすっと色が消え失せる。
レオンの耳には彼女たちの最後の言葉が微かに聞こえた。
「ありがとう」その言葉をレオンは胸に刻み込む。辛い境遇の中で生きた彼女たちのことを忘れないためにも……
色を失った瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
粗茶 「時間なくてあんまりかけませんでした。今回は短いです1500字くらいかな?」
サラマンダー 「やる気出せよ!!」
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