盗賊⑤
レオンの足取りは更に重くなる。
足が鉛になったのではと思うほど重い。最後に残る生命反応を頼りに、レオンは一番大きな天幕へと入った。
其処は今までのような薄汚い天幕とは違い、見事な調度品が所狭しと置かれていた。
盗んだものであろうが、どれも値が張りそうな見事な物ばかりである。
視線を逸らせば一人の男が、奥のテーブルに突っ伏して命を落としていた。酒を飲んでいたのだろう。周囲には酒の匂いが漂い、床には割れたグラスが散乱している。
男は他の盗賊と違い小奇麗な格好をしていることから、この盗賊団の頭なのかもしれない。レオンは男を粉微塵にしようと手を向けるも魔法を放つのを止めた。今更何をやったところで虚しいだけ、手を下ろし傍にあるベッドに視線を向ける。
ベッドの上では女性が横たわりぐったりとしていた。外見はまだ幼く見える。女性と言うよりは少女に近いだろう。
顔には殴られた跡があるが命に別状はないらしい。衣服も身に纏い、まだ盗賊の慰みものにはなっていないようである。
レオンが少女の傷と麻痺を治すと、少女は薄らと瞳を開け始めた。起き上がり周囲を軽く見渡し、レオンの存在に気付くと首を傾げる。
「私は助けに来た冒険者だ。大丈夫か?」
少女は思考が働かないのか、呆然とレオンを見つめるばかりであった。
(盗賊に襲われたことを覚えていないのか、それとも記憶が混乱してるのか。どちらにせよ現状を伝える必要があるな……。まったく気が重い……)
「盗賊に襲われたことは覚えていないのか?お前は盗賊に攫われたのだぞ?」
「私はお父さんと一緒に小麦の買い付けに……、それから朝一番で街を出て――」
少女は思い出したように声を上げた。
「そうだ!お父さんは!?」
「馬車に乗っていた男なら盗賊に殺されていた」
「え……」
レオンの言葉に少女は唖然とする。
何を言っているんだと、少女の瞳がレオンに訴えかけていた。
だが暫くすると、何かを思い出したかのように独り言を呟き始めた。
「そうだ……、盗賊に襲われて、お父さんは私を庇って――」
次の瞬間、少女の瞳からは止めどなく涙が溢れ出ていた。
声を上げて泣きじゃくる少女にレオンは掛ける言葉がない。
「私は少し外に出ている……」
そう告げると、その場を静かに立ち去った。
レオンにはどうすることもできない。蘇生魔法で生き返らせることも出来るが、公に使うつもりはなかった。
この世界では蘇生魔法を使える人間は大陸に極僅か、そんな魔法を使えると知れたら、大勢の人間がレオンの元に殺到するのは火を見るより明らかだ。
どんな面倒事に巻き込まれるか想像すらできない。
(暫くそっとしておくか……。今の内に亡くなった女性と子供の埋葬をしよう。
ギルドの職員は危険な森の中で
レオンは大きな木の根元に魔法で穴を開けると、そこに女性と子供の遺体を埋めた。
(木が墓標ですまないな。味気ない墓だが何も無いよりはましだろ……。後はアイテムを回収して少女をギルドに保護してもらおう……)
レオンはヒュンフを呼び寄せ、天幕を回りながらアイテムを回収していく。
盗賊の人数が多いためか、食料も大量に備蓄されていた。全て回収し終わると、レオンはヒュンフを影に潜め、再び少女の元へとやって来た。
道中にある調度品も全て回収済みである。
少女は未だに泣きじゃくり、レオンのことは気にもとめない。
(仕方ない……)
レオンが
レオンは少女を抱き抱えてフィーアの元に戻る。遠目からレオンの行動を見ていたフィーアは複雑な表情で出迎えていた。
「お帰りなさいませレオン様。女性や子供の埋葬、私に仰っていただければ行いましたものを」
「いや、よいのだ。最終的に命を奪ったのは私だからな」
「そう…ですか……」
「夜中では冒険者ギルドも閉まっているだろう。この少女は一日屋敷で保護する」
「畏まりました。お屋敷に戻り次第、お部屋をご用意いたします」
「頼む。では屋敷に戻るぞ」
次の瞬間、レオンは転移の魔法を唱える。
レオンらが消えた後には、どこまでも深い静寂の闇だけが残されていた。
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サラマンダー 「今回も短いね」
粗茶 「なに言ってるんだい?書き始め当初に比べたら増えた方だよ?」
サラマンダー 「最初はやる気無さ過ぎて1000字程度だったもんね。死ねばいいのに」
粗茶 「最近は頑張って3000字くらい書いてたよ、昨日も今日も駄目だったけど……」
サラマンダー 「やっぱり死ねばいいのに」
粗茶 「トカゲぇええええ!後で覚えてろよ。作品の中でいつか酷い目に合わせてやる!」
サラマンダー 「パワハラ!∑(`・д・´ノ)ノ」
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