贈り物②

「レ、レオンさん、まだあるんですか?」


 レオンがアイテムを取り出すのを見て、ミハイルが驚きの声を上げた。

 先程もらった弓だけでも既に金貨1000枚以上の価値はある。


「アイテムは四人分用意してある。ベティ、お前にはこれをやろう」


 ミハイルはレオンの申し出を断ろうと思っていたが、取り出したのは見るからに価値の低い指輪であった。

 高価な物でなければ気持ちとして受け取っても問題はない。寧ろ安物だからと断るのは失礼に当たる。

 レオンがベティに手渡したのは、装飾が全く施されていない無骨な金属の指輪であった。

 ベティは嬉しくないのか、困ったように眉尻を下げて頭をガシガシ掻いていた。


「指輪なんて嵌めた事がねぇからなぁ……」

「そうなのか?まぁ、そんなことはどうでもよい。これは怪力の指輪リング・オブ・ハキュリアン、力を増加させる指輪だ。重装備のお前には相応しいだろう」

「力の増加?こんな指輪でそんなことが可能なのかよ?」


 ベティは指輪を掲げて眺めるも、何処にでもある普通の指輪にしか見えなかった。

 言い方を変えるなら、装飾が全く施されていない安物の指輪でしかない。どうせくれるなら、綺麗な宝石の付いた指輪がいいのにと思わなくもなかった。


「嵌めてみれば分かる」


 レオンの言葉を受けて、ベティは指輪を摘んで持ち上げた。

 自分の太い指に指輪なんて入るのかと顔を顰めるも、そんな心配を他所に指輪はぴったりと指に収まった。

 まるで初めから自分のためにあつらえたかのようにしっくりとくる。

 それと同時に、鎧や背負っている盾が急激に軽くなるのを感じていた。先程までのずしりとした重さが嘘のように軽い。

 薄い布地を纏っているのではと錯覚するほど重さが感じられなかった。

 ベティは自分の力を確かめるように、何度も手を握ったり開いたりを繰り返す。


「どうしたのベティ?」

「ミハイル、この指輪ちょっとやばいかも」

「やばい?」

「力が急激に増した気がする。鎧の重さも殆ど感じない」


 ベティは落ちている小石を拾い上げて両手で挟むと、「ふん!」と力を込めて押し潰した。

 手を開くとそこには粉々に砕けた石が姿を現す。

 ベティはミハイルにそれを見せて苦笑する。


「な?こんな感じにやばい」

「…………」


 ミハイルは直ぐ様レオンに視線を移した。


「レオンさん!これも神器アーティファクトですよね?こんな貴重な物を幾つも受け取れませんよ!」

「ミハイルは大袈裟だな。お前が思っているほど大した物ではない、安心しろ。それにまだお前とウィズの分もある」

「まだ神器アーティファクトがあるんですか?」

神器アーティファクトかどうかは分からんが、少なくとも今のお前たちに相応しい贈り物を選んだつもりだ」

「普通の物なら喜んで受け取るのですが――」

「それならば問題はない。私にとっては普通の物だ」

「……何を言っても無駄みたいですね」

「そういう事だな」


 レオンは笑い返すとウィズに視線を向けた。

 ウィズは贈り物に期待してか、そわそわしながら満面の笑みでレオンのことを見ている。


「ウィズ、MP根性のないお前には、これが丁度よいだろう」


 何か酷いことを言われた気がするが、それも直ぐに忘れ去る。レオンの手の上にある指輪を見て、ウィズの顔が思わず綻んだ。

 指輪には緑色の小さな宝石が嵌められ、全体に細やかな装飾が施されていた。

 これだけ繊細な指輪は王都の職人でも作れるものではない。

 ウィズは綺麗な指輪に心奪われ浮かれていた。


「こ、これ貰っていいの?」

「勿論だ。お前のために選んだ指輪だからな」


 指輪を手渡すと同時にプロポーズのような言葉を掛けられ、ウィズの顔は見る間に朱色に染まっていった。

 だがそれも束の間、レオンの次の言葉でウィズの表情に影が落ちる。


「これはMP強化の指輪ど根性リングMP根性が極端に足りないお前には最も相応しいアイテムだ」

「……?はぁあああ!?私に根性が足りないですって!!それに、その指輪の名前!絶対に違うでしょ!」

「指輪の呼び名は分かりやすく変えてみた。それとお前のMP根性の少なさは筋金入りだ。慢心するのはよくないな」

「この天才に向かってなに言ってんのよ!根性くらいあるわよ!!」


 ウィズは苦笑するレオンを見て苦々しく思うも指輪に罪はない。

 思うことは多々あるが、指輪自体は見事な作りである。美しい指輪は一度見た女性であれば、その多くが憧れることだろう。

 ウィズは指輪をそっと嵌めて掲げてみる。陽の光が石に反射し、綺麗な輝きを放っていた。

 その様子をシェリーやベティが、少し羨ましそうに眺めている。


「そのMP強化の指輪ど根性リングを嵌めていれば、今までよりも魔法を唱えることが出来る。お前には打って付けの贈り物だろ?」

「もし本当なら凄い指輪ね。見た目も綺麗だし気に入ったわ。でも名前は酷いけどね。あと気になることがあるんだけど――魔法って根性で唱えるものなの?初めて聞いたんだけど……」

「うむ。魔法はMP根性で唱えるものだ」


 自信満々に告げるレオンの言葉を聞いて、ウィズは「そうか、根性か――」と何度も意味深に頷いている。

 レオンはそれを横目で確認し、ど根性魔法少女の誕生も近いなとほくそ笑んでいた。


「さて、最後にミハイルだが――お前にはこれをやろう」


 レオンが差し出したのは魔法銃、だがレオンのものより小振りで重さも軽い。

 所謂いわゆるデリンジャーと呼ばれる銃に酷似していた。

 銃身はオリハリコン、カートリッジはミスリルなのは変わらないが、グリップにはラバー素材が使われ、誰の手にもしっくりと馴染むようになっていた。


「レオンさん、これはもしかして魔法銃では?」

「その通りだ。知り合いに魔法銃を作ってもらったのだが、これはその失敗作でな。だが捨てるのも勿体無いため、改良してミハイルへの贈り物にさせてもらった」

「魔法銃を作れるなんて凄い知り合いですね」

「そうだな、私も改めてそう思う」


 レオンが魔法銃を渡すと、ミハイルは様々な角度から魔法銃を観察していた。

 余程興味があるのか、ベティ、シェリー、ウィズの三人も魔法銃を覗き込んでいる。


「レオンさん、これはどのように使用するのでしょうか?取り外せるようなカートリッジが見当たりませんが?」

「銃の中にカートリッジが入っているからな。銃は真ん中から折れるようになっている。その中に銀色の弾丸が入っているはずだ」


 ミハイルは言われた通りに従い銃身のみを持ち上げた。

 すると魔法銃の銃身は口を開けたように上に持ち上がる。中には銀色の弾丸が二発装填されており、逆さにすると、するりと手の上に滑り落ちてきた。


「これが弾丸?カートリッジですか?」

「その通りだ。魔法を充填する際には、弾丸を握り締めて魔法を唱えるだけでよい。それ一つに魔法の矢マジックアローが二百発入る」

「に、二百発!?こんなに小さいのにですか?」


 ミハイルは小さな弾丸を目の前に持ってきてまじまじと眺めた。

 今まで自分が使っていた魔法銃のカートリッジとは比べるまでもなく小さい。

 しかも、今まで使っていたカートリッジに入るのは、魔法の矢マジックアローが二十発のみ。魔法の充填数は十倍である。

 ミハイルが驚くのも無理はなかった。


「うむ。それとこれが予備の弾丸だ」

「こちらのカートリッジには色が付いているんですね」

「分かり易いように色を付けておいた。この赤と青の弾丸には魔法が百発入る。ウィズの魔力であれば、雷玉サンダーボール雷撃サンダーヴォルトも入るだろう。この弾丸にはウィズに魔法を入れてもらうとよいだろうな」

「す、凄い!魔法の矢マジックアロー以外の魔法が充填できるなんて」


 ミハイルが驚くのを尻目に、ウィズは少し不貞腐ふてくされていた。

 自分の魔法が弱いように言われたのが気に入らないのだろう。頬を膨らませてレオンのことを凝視している。

 レオンはその様子を瞳の端で捉えるも、面倒だと言わんばかりに無視して話を進めていった。


「念のため忠告をしておくが、一つの弾丸に複数の魔法を入れるなよ?どの魔法が撃ち出されるか分からないからな」

「はい!十分注意します」


 ミハイルは玩具おもちゃを貰った子供のように瞳を輝かせていた。

 何度も弾倉を開いたり閉じたりしては、楽しそうに魔法銃をいじっている。

 銃で遊ぶのは本来どうかと思うのだが、レオンもその気持ちはよく理解していた。

 レオンとて魔法銃を受け取った日には何度も試し打ちをしたり、回転式弾倉シリンダーを回して遊んだのだから。

 これは男のさがなのだろうと、レオンは楽しそうなミハイルを見つめていた。








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サラマンダー 「ねぇ、ウィズって20歳くらいだよね?魔法少女に入るの?」

粗茶 「いいかトカゲ、女性は魔法が使えたら誰でも魔法少女なんだよ」

サラマンダー 「100歳超えても魔法少女なの?」

粗茶 「当然だろ?外見で判断するから所詮はトカゲなんだよ」

サラマンダー 「そ、そうなんだ……」

粗茶 「俺は人間を外見では判断しない。人間は等しく平等に中身で判断する」

サラマンダー 「へ、へぇ……。僕を中身で判断するとどうなるの?」

粗茶 「唯の肉だな!」

サラマンダー 「中身の意味が違う気がする!!カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ」


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