贈り物①

 レオンらを襲った盗賊のことは瞬く間に街中に広まっていった。

 尤も、盗賊とは名ばかり、貧困街の住民の仕業であることが後の調査で判明する。

 皆殺しにしたレオンに非難の目を向ける住民も数多くいたが、危険に身を晒している冒険者の多くはレオンの行いをやむ無しと見ていた。

 殺るか殺られるか、魔物と命の取り合いをする冒険者は、下手な手心が命取りになることを知っている。

 盗賊を擁護するような発言は、命懸けで戦ったことがない街の住民の詭弁きべんでしかなかった。


 あれから倉庫街に何度か怪しい男たちが彷徨うろついていたが、レオンを襲って来る者は誰一人おらず、いつの間にか姿を消していた。

 恐らく屋敷を探していたのだろう。寝込みに金を奪おうと考えたのかもしれない。

 レオンを尾行する男たちもいたが、早々に諦めたのか、三日後には尾行もいなくなっていた。


 尤もレオンの興味は盗賊ではなくプレイヤーの動向にある。

 北へ隠密を放ってはいるが、未だにプレイヤーの影は捉えることができずにいた。

 冒険者ギルドでもプレイヤーの影は見当たらず、八方塞がりの状態にレオンは頭を悩ませていた。


(村人が獣人に連れ去られたことは、既に近隣諸国に広まっている。にも関わらず、プレイヤーが動いた様子がない。近くにプレイヤーがいないのか、それとも――)


 冒険者ギルドの片隅で、レオンが黙って考え事をしているのが気になるのだろう。ミハイルが心配そうにレオンの顔を覗き込んでいた。


「レオンさん、もしかして街の声を気にしているんですか?多勢に無勢、しかも武器を持っていて殺意は明確です。殺さなければ殺されています、仕方ありませんよ」


 突然のミハイルの声にレオンの思考が停止する。


(え?何の話し?全然聞いてなかったんですけど……。取り敢えず頷いておけば大丈夫かな?)


「ああ、その通りだな」

「そうです。気にすることはありません。レオンさんは悪くありませんよ」

「うむ。私は全く悪くない」


 レオンはきっぱりと言い切るも、内心では首を傾げていた。


(な、何が悪くないんだろ……)


 ミハイルはレオンの心の声など知る由もない。いつもの偉そうな言葉を聞いて安堵すると、毎日の何気ない会話を始めた。


「レオンさんは今日も依頼を受けられないんですか?」

「金が欲しいわけではないからな」

「あれだけの報酬を貰った後ですしね」


 ミハイルの言葉にレオンはあることを思い出す。

 報酬のお礼に贈り物をしようと準備をしていたのだが、盗賊騒ぎですっかり頭の片隅に追いやられていた。


(あ!そう言えば、報酬のお礼をしていなかった。数少ない友人に、礼儀知らずと思われるのは不味い。ちゃんとお礼を渡さないと)


「ミハイル、お前たちに渡したい物があるのだが――ここは人目に付くな」

「以前話していたお礼の品ですか?」

「うむ。使い方も教えたい。出来れば街の外がよいな」

「でしたら僕らの依頼に付き合いませんか?これからコボルトを狩りに行くんです」

「では同行しよう。ゆたんぽは……。まぁ、必要ないだろ」

「そうですね。僕は仲間に話してきます。レオンさんは街の南門で待っていてください」

「了解した」


 レオンは頷き返し冒険者ギルドを後にする。

 倉庫街を抜け南門で待っていると、程なくしてミハイルらがやって来た。

 一日で終わる依頼のためか、ポーターの姿は見当たらない。

 レオンに引っ付いているバハムートを見て、ベティが呆れたように声を上げた。


「レオン、来る途中にお前の屋敷があったんだろ?何で屋敷に子供を置いて来ないんだよ」

「バハムートにも狩りを見せてやりたいからな。これも社会勉強だ」

「あのなぁ、外は魔物が出るんだぞ?危ないだろうが」

「そうですよレオンさん。子供を連れて行くのは危険です」

「ベティやミハイルの言う通りです。何かあってからでは遅いんですよ?」

「なに言ったって無駄よ。人の言うことなんて聞きゃしないんだから」

「全くうるさい奴らだ。騒ぐなら置いていくぞ」


 街の外に歩き出すレオンを見て、ベティは処置なしとばかりに顔を手で覆い、ミハイルとシェリーは仕方ないかと苦笑いを浮かべていた。

 流石に子連れのレオンたちだけを行かせるわけにも行かず、ミハイルらは直ぐにレオンの後を追うことになる。

 レオンは肩ごしにミハイルに視線を向けると目的の場所を尋ねた。先陣を切って歩いてはいるが、何処に向かうかはまだ聞いていない。

 そのため見当違いの方向に歩いている恐れもあった。


「ミハイル、今更だが方向はあっているのか?」

「大丈夫ですよ。このまま森の近くまで行きます。ですが徐々そろそろシェリーを先頭にした方がいいですね。魔物を事前に察知できないと危険ですから」

「そうか……、魔物が出てきてから渡しても遅いからな。今の内に渡しておくか」

「もしかして、レオンさんが言っていたお礼の品ですか?楽しみですね」


 レオンは足を止めると、マントの下から一本の弓を取り出してシェリーに手渡した。

 金属で出来た銀色の弓には弦が張られておらず、弓の端には弦を引っ掛ける場所もない。薄らと緑を帯びた銀色の弓は、どこか神秘的な様相を醸し出している。

 シェリーが不思議そうに首を傾げていると、レオンが弓の説明を始めた。


「それは矢を必要としない弓だ。名前はそよ風の弓ブリーズ・シューター、私の持っている矢を必要としない弓の中では、一番レベルが低い武器になる」

「矢を必要としない?」

「矢をつがえるつもりで向こうの木を狙ってみろ。説明するより実際に使った方が分かり易い」


 シェリーは言われた通りに、矢を番えたつもりで弓を引き絞る動作をする。

 だが弦がないため何とも手応えがない。これに何の意味があるんだと不思議に思うも、言われた通りに木を狙って矢を放つように指を離した。

 突如、バキバキッと音を立てながら、狙いを定めていた木が倒れだす。

 よく見れば木の幹の半分がえぐり取られなくなっていた。

 その様子にミハイルたちは目を丸くする。


「うむ。まぁ、威力が弱いのは仕方ないな。シェリーは獣人との戦いで矢を使い果たし、その後は無謀にも接近戦を挑んでいた。これならば矢が尽きることもない。安心して遠距離の攻撃に専念出来るだろう」


 太い木の幹を貫通して威力が弱い?なんの冗談だとシェリーは我が耳を疑う。

 ミハイルはシェリーの持つ弓をまじまじと眺め口を開いた。


「レ、レオンさん、これ神器アーティファクトですよね?」

神器アーティファクトとは何かは知らないが、これはレベル80の何処にでもある――あ、いや、違うな。とても貴重な弓だ」

「どこからどう見ても神器アーティファクトですよ。矢を必要としない弓、しかもあの威力。恐らく世界に二つとないでしょう。これほど貴重な弓はいただけません」


(え?いや、他にも二十本くらい持ってるけど……)


「ミハイルが思っているほど貴重なものではない。友人からの贈り物として受け取って欲しい」

「ですが……」

「ミハイル、そう深く考えるな。大切に使ってくれたら、私はそれだけで満足だ」

「……分かりました。有り難くいただきます」


 ミハイルがシェリーに視線を向けると、シェリーは大きく頷いた。


「レオンさん、この弓は一生大切にします」

「シェリーのその気持ちは嬉しく思う。だが弓を大切にするあまり、自分の命をないがしろにするなよ。何よりも大切なのは、自分の命だと言うことを忘れるな」

「は、はい」


 レオンは頷くシェリーを見て満足すると、次のアイテムを取り出した。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


贈り物全部書きたかったのですが時間がなく無理でした。

最近は投稿時間が日付変更一分前で心臓に悪いです。そして投稿してから見直して加筆修正しています。

直ぐに読まずに時間を置いてから読むことをお勧めします

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