社会勉強①
レオンは膝の上からバハムートを下ろすとフィーアに視線を向けた。
予定外のことで出遅れたが、冒険者ギルドでのプレイヤー探しは未だ継続されている。
この街に冒険者のプレイヤーがいるにしても、毎日ギルドに来るとは限らない。
プレイヤーに関する手掛かりが全くない以上、地道な作業を繰り返すより他なかった。
「フィーア、少し遅くなったが冒険者ギルドに行くぞ」
「畏まりました」
フィーアは頭を下げヒュンフはレオンの影に
レオンも歩き出そうと足を踏み出すも、次の足を出すことができなかった。
片足にバハムートがガシッと掴まり、潤んだ瞳で見上げてくる。
「バハムート、お前も一緒に行きたいのか?」
バハムートはコクコク頷き、連れて行ってと意思表示をしてくる。
しかし、ガチャの従者やペットは目立つ。もし、バハムートを持っているプレイヤーがいたら、恐らく擬人化しているバハムートの姿を知っているだろう。
それが友好的なプレイヤーとも限らない。
レオンは駄目だと言おうとするも、泣きそうなバハムートに言葉が出なかった。
(はぁ……。プレイヤーに見つかったら戦闘になる恐れもあるんだぞ?でも断れる雰囲気でもないしな……。いざとなったらヒュンフに連れて逃げてもらうか)
レオンはバハムートのパジャマに着いているフードを被せる。
少しでも外見を誤魔化すためではあるが、それが妙に似合っていた。
(おぉ、白猫の着ぐるみパジャマか、中々似合ってるじゃないか。まぁ、幼い子供だし、この格好で外に出しても違和感はないだろ)
「よいかバハムート。外でこのフードを外しては駄目だぞ?」
「むぅ」
レオンは頷くバハムートを抱き抱えると、今度こそ冒険者ギルドに足を向けた。
サラマンダーは庭でレオンらを見送り、可愛らしい鳴き声を上げる。
目立つサラマンダーは街中に連れて行くことは滅多にない。依頼で街の外に出るとき以外は、屋敷で留守番をするのが定番であった。
レオンが繁華街を
もしやプレイヤーかと警戒するも、そんなことはなく、
レオンは多少不思議に思うも、構わず冒険者ギルドへと急いでいた。
ギルド内は今日も賑わい、大勢の冒険者で溢れ返っていた。
「カランカラン」という音色と共に、部屋の入口に視線が集まる。いつもであれば、それは一瞬のことであるが、今日は少し違っていた。
その人物を見るや、顔を僅かに背けるも、視線だけはずっと後を追っている。
誰かが口を開こうとするも、仲間と思しき男が止めに入っていた。
その様子にレオンは訝しげに冒険者を見渡す。
(今日はいつも以上に視線を感じるな。やはりバハムートが可愛いからか?)
レオンがそんな親馬鹿なことを考えていると、ガストンがドカドカ音を立てながら歩み寄ってきた。
呆れたような顔をしながらレオンに話し掛ける。
「レオン、その子はお前の子供か?」
「そうだ。私の子供だな」
レオンは説明が面倒なので適当に答える。それに
バハムートは自分が引いたガチャで出たのだから、自分の子供も同然だろうと。
「その子の格好はどうかと思うぞ?」
「格好だと?可愛らしいではないか?」
「いや、確かに可愛いんだが、その頭の耳は不味だろ?
神妙な面持ちで答えるガストンに、レオンは納得したように、「なるほどな」と頷いた。
(それで注目を集めていたのか。獣人の件は既に街中に知れ渡っている。そりゃ、よく思われないよな……)
レオンはバハムートを片手で抱き直すと、空いた手でフードの猫耳を引きちぎった。
僅かに糸が残ってしまったが、よく見なければ気にはならない。尻尾は付いていないため、これで不快感を買うことはないだろうとレオンは大きく頷いた。
「これで問題はないだろ?」
「ああ、これなら大丈夫だ」
ガストンもバハムートのフードを見て、満足気に太鼓判を押す。
「それにしても、お前には子供がいたのか。しかも銀髪とは珍しいな。お前らとは髪の色が違うが、
「それしか考えられないだろ?それとも、私の子供ではないと言いたいのか?」
「んなこと誰も言ってないだろ?
二人が話しをしている間、バハムートはじっとガストンのことを見ていた。
不意にレオンの腕から飛び降りると、ガストンの足をペチペチと殴りつけた。
尤も、バハムートはまだ幼く力も弱い。
ガストンは迷惑そうにバハムートを見て顔を顰める。
「おいレオン。早く止めさせろ。手を怪我するぞ?」
「そうだな。バハムート、人間を叩いては駄目だぞ?人間とは仲良くするのだ」
子供の名前を聞いたガストンは、口を大きく開けて呆れかえる。
「バ、バハムート?伝説のドラゴンの名前だろ?また随分と大層な名前を付けたもんだ。でもな、そんな名前を付けられた子供は大きくなってから辛いんだぞ?お前そういうこと、なんも考えてないだろ?可愛そうだぞ?」
(この世界にもバハムートがいたのか?伝説ってことは、もう死んでるよな?生きていたら、きっと
バハムートは正式な名前である。可哀想なことなどあるはずがない。レオンは胸を張ってガストンに答える。
「良い名前ではないか。なぁ、バハムート」
レオンが視線を下に向けると、バハムートは未だにガストンをペチペチと殴っていた。
ガストンは苦笑いを浮かべるも、じゃれついているようで可愛いのだろう。敢えて止めるようなことはせず、その光景を
レオンは言うことを聞かないバハムートをヒョイっと持ち上げる。
「バハムート、先ほど人間を叩いては駄目だと言ったはずだぞ?」
「むぅぅ」
バハムートはガストンを指差し何やら話すも、やはりレオンには理解できない。
レオンが困り果てていると、フィーアが口を開いた。
「レオン様、恐らくバハムートは、あれは魔物だと仰っているのではないでしょうか?」
「むぅ」
フィーアの言葉を聞いて、バハムートはその通りと何度も首を縦に振る。
会話を聞いていたガストンの表情が見る間に曇っていった。
「お、俺が魔物だと?レオン!お前は子供にどういう教育をしてるんだ!」
「まぁ、落ち着けガストン。バハムートは賢い子だ。いま教え直すから安心しろ」
レオンはバハムートを抱き抱え、真剣な表情で視線を向ける。
バハムートも何かを感じ取ったのか、レオンの声に全力で耳を傾けた。
「よいかバハムート。お前は驚くかも知れないが――なんとガストンは人間だ」
それを聞いたバハムートは瞳を見開き驚愕の表情を見せた。
周りでガストンが騒いでいるが、そんなことはお構いないしにレオンの説明は続けられる。
「もし外で魔物を見つけても、直ぐに攻撃をしてはいけない。特に、オーガ、オーク、トロールなどには要注意だ。先ずはガストンかどうかを確かめる必要がある。外見で見極めるのは困難だろう。だが、お前ならきっと出来るはずだ。自信を持て!」
「むぅ!」
分かったと頷き返すバハムートを見て、レオンはガストンに視線を移した。
「この通りバハムートも分かってくれた。これで襲われることもないだろう。良かったなガストン」
「
「そんなことはない。現にバハムートは、お前を魔物と判断したではないか?」
「何でだよ!普通直ぐに分かるだろ!?」
「そうか?」
「はぁ……、もういい。俺は仲間の元に戻る」
ガストンは何を言っても無駄と知ると、肩を落として溜息を漏らす。
立ち去るガストンの背中には哀愁が漂い、その後ろ姿にレオンも少し反省をする。
(俺のことを心配して声を掛けたんだろうな。相変わらずガストンはいい奴だ。ガストンを
その後は冒険者を観察してプレイヤーの影を探すも、今日も全く収穫はなかった。
人がいなくなると、レオンはカウンターに足を向けてニナに話し掛ける。新たな情報を聞き出そうとするも、
聞けたのは、襲われた村に暫く兵士が駐屯するという話だけであった。
レオンは謝礼に銀貨一枚を手渡し、冒険者ギルドを後にした。
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粗茶 「この世界での硬貨の価値をまだ説明していませんでした。
日本円に換算すると以下の通りです」
金貨1枚 300万円
銀貨1枚 3万円
銅貨1枚 300円
粗茶 「下は今まで主人公が使った硬貨の内訳です」
串肉2本 銅貨2枚 600円
情報料(ニナ) 金貨2枚 600万円
冒険者登録2人分 銀貨4枚 12万円
代筆の謝礼(ニナ) 銀貨4枚 12万円
騎乗魔獣登録料金 銀貨10枚 30万円
代筆の謝礼(ニナ) 銀貨10枚 30万円
謝礼(エミー) 金貨1枚 300万円
倉庫六棟 金貨180枚 5億4千万円
謝礼(ニナ) 銀貨1枚 3万円
現在の手持ちの硬貨 凡そ金貨190枚 凡そ5億7千万円
粗茶 「この主人公は、いつになったら、この世界の貨幣価値を覚えるのでしょう?
それとも覚える気はないのかな?
こうして見ると情報料と謝礼がおかしなことになっています。
特にニナに払っている金額がおかしいですね。
肉体関係を疑われてもおかしくない金額です。
倉庫の金額にも問題があります。
閑散とした倉庫街の一角なのに値段が高すぎます。
人の良さそうなトマスのおっさんは、間違いなくぼったくっています。
おっさんの中の適正価格が既にぼったくり料金です。
この世界は怖いですね」
粗茶 「ちなみにトカゲの串焼きは100本で銅貨1枚ですよ」
サラマンダー 「安い!!Σ(゜ロ゜;)!! 」
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