ペット?
呆然と立ち尽くすレオンが気になるのか、幼女はペチペチとレオンの顔を叩いていた。
レオンが小さな手に反応して視線を下ろすと、幼女は嬉しそうに笑いかけてくる。
(おのれ!ゆたんぽを手懐けるとは!このサラマンダーはうちの子だぞ!お前にはやらんからな!!)
レオンは幼女相手に大人気なく憤慨するも、この幼女もこのままと言うわけにもいかない。
外には親もいるだろうと大通りに出るも、ここは倉庫街のど真ん中、通りに人影はなくレオンは途方に暮れる。
大通りで
こういう事は専門職に任せるのが一番である。
ヒュンフであれば僅かな痕跡から親を探すこともできる。何もレオンが時間をかけて親を探す必要はない。
屋敷に連れ帰り食堂に入ると、四人の従者はいつものようにレオンを出迎えた。
深々と頭を下げ朝の挨拶を交わし、レオンに椅子を進める。
拠点で見たいつもの光景にレオンは顔を顰めた。
(幼女はスルーかよ!!普通は真っ先に気になるだろ?何で誰も突っ込まないんだよ……)
自分から話を切り出せばよいだけなのだが、従者たちの余りの関心のなさにレオンは
何気なく幼女の頭を撫でて癒されていると、ヒュンフが放った言葉にレオンは我が耳を疑う。
「バハムート、レオン様に甘えすぎです。早く降りなさい」
(……バハムートだと?)
ヒュンフの視線は幼女を捉えており、間違いなく幼女に向かって話していた。
だが、レオンの知るバハムートは手乗りサイズの小さなドラゴンである。
暫く見ていないため、もう少し大きくなっているだろうが、それでも外見は紛れもないドラゴンであった。
それが何で拠点から出て屋敷にいるのか不思議でならない。しかも人間の姿は予想の
レオンは自分の胸に顔を埋める幼女をじっと見る。
確かに黄金の瞳はバハムートと同じであるが、それ以外は似ても似つかない。
レオンはヒュンフの言葉を確認するため、幼女を持ち上げフィーアに尋ねる。
「フィーア、この子はバハムートなのか?」
「その通りでございます。バハムートがどうかされましたか?」
「あ、いや、姿が随分と変わっているのでな」
「何でも擬人化のスキルを覚えているとか。ノインがそのような話をしておりました」
(擬人化のスキル?ペット特有のスキルか?聞いたことがないな……)
レオンはノインに視線を向けると、ノインはなんでしょうと小首を傾げる。
その仕草をレオンが可愛いと思ったのは言うまでもない。
「ノイン、他のペットも人間の姿になれるのか?」
「私もバハムートから話を聞いて、初めてスキルのことを知りました。申し訳ございませんが分かりかねます」
「ノインはマスターテイマーの職業を持っていたな。ある程度ペットたちと意思疎通ができるのだろ?他のペットたちに直接聞いても分からないのか?」
「私も気になり尋ねてみたのですが、ペットたち自身も分からないようです」
「そうか……」
(擬人化のスキルか……。随分前にペットを擬人化する噂が流れたが――もしかして、開発はされていたのか?でも、それならバハムートだけと言うのは納得がいかないな。いや、そんなことはないか。特定のペット限定と言うのも考えられるからな)
レオンが視線を落とすとバハムートはニコっと笑いかけてきた。
その愛くるしさに思わず顔が綻ぶ。身内と分かった途端に可愛らしく見えるのだから不思議である。
「バハムート、お前は何でゆたんぽを――サラマンダーを虐めていたのだ?」
「むぅ、むぅううう、むぅう」
バハムートは何かを必死に話すも、レオンには何を話しているのか全く理解できなかった。
助けを求めるようにノインに視線を向けると、ノインは頷き返し、バハムートの言葉をレオンに伝えた。
「レオン様の傍にいるのが許せないと申しております。トカゲの分際で生意気だと」
(うわぁ、ちっこいのに毒舌だなぁ……)
「そうか……。では、ゆたんぽが私の命令よりも、バハムートの言葉を優先したのは何故か分かるか?」
「それは恐らく、種族としての歴然たる差を感じ取ったのでしょう」
(ゆたんぽは逆らったら不味いと思ったわけか……。天敵みたいなもんかな?)
「なるほどな。もう一つ聞きたいことがある。
「それはバハムートがどうしてもと――私も随分と説得をしたのですが、結局は言うことを聞かず……」
レオンは溜息を漏らすとバハムートを見つめた。
頭を撫でてやると気持ち良さそうに瞳を細めている。
レオンは可愛いなと思いながらも、心を鬼にして話し掛ける。
「バハムート、お前に外の世界はまだ早い。拠点に戻り大人しく待つのだ」
レオンの言葉を聞いても、バハムートは首を左右に振って嫌がる。
余程戻りたくないのであろう。口をへの字に曲げ、瞳の端には涙を浮かべている。
引き下がらないバハムートに、レオンは再度、
「お前の身を案じてのことだ。私の言いたいことは分かるだろ?」
レオンの問いかけに耐え切れなくなったのか、バハムートは口元を歪ませ大粒の涙を
「むぅむぅ」泣きじゃくるバハムートを見て、レオンはやってしまっとばかりに肩を落とす。
流石に子供に泣かれては強くも言えない。レオンは諦めたように溜息を漏らすと、バハムートが泣き止むまで頭をずっと撫で続けた。
その甲斐あってか、程なくしてバハムートは泣き止むも、まだその瞳には涙を蓄えていた。
いつ泣き出してもおかしくない状況に、レオンは仕方ないかと苦笑する。
「バハムート、お前の滞在を許可してもよいが条件がある。ゆたんぽと仲良くすることだ。この条件を守れるか?」
「むぅぅぅ」
「嫌だと言っておられます」
ノインの言葉を聞いてレオンの表情は曇る。
(幾らなんでもゆたんぽを嫌いすぎじゃないのか?とは言え、仲の悪いまま置いておくわけにもいかないしな……)
レオンはバハムートの瞳を見据えた。
「バハムート、これが最後だ。もし今度嫌だと言ったら、力尽くでもお前を拠点に送り届ける。ゆたんぽと仲良くできるな?」
「……むぅむぅぅむぅ」
「私とサラマンダーどちらが好きですかと尋ねております」
(えぇ……。なにそれ?まぁ、どちらも大切だが、両方と言っても言うことを聞かないだろうし、実質答えは一つしかないよな……)
「無論、バハムートの方が大切だとも」
「むぅ!むぅむぅぅ」
「分かりました。サラマンダーと仲良くしますと申しております」
「そうか、では仲直りの印にゆたんぽに謝れるな?」
「むぅ」
バハムートは大きく頷くと、トコトコ歩いて部屋を出て行った。
暫くすると窓越しにバハムートの姿が映る。サラマンダーに何やら話しかけると、サラマンダーはゴロンとひっくり返り元の体勢に戻っていた。
バハムートはサラマンダーの顎を数回撫で回し、再びトコトコ屋敷に中へと姿を消していった。
暫くすると、食堂の入口から再びバハムートが姿を見せる。
レオンの足にガシッと掴まると、そのまま足をよじ登り、膝に上にちょこんと腰を落とす。
「むぅ」
「そうか仲直りしたんだな?」
「むぅ」
頷くバハムートを見てレオンは笑顔を見せる。
「そうか、ではバハムートの滞在を認める」
許しを得たバハムートは満面の笑みでレオンに抱きついた。
何度も笑顔で「むぅむぅ」言っているが、感謝の言葉であることはレオンにも何となく理解できた。
小さい体で擦り寄ってくるさまは何とも可愛いものである。
レオンにはとっては予想外の出来事であったが、こうして屋敷の住人が一人――一匹?――増えることになった。
この頃には屋敷に居座っているアハトとノインのことなどすっかり忘れている。
レオンからの帰還命令が無い事を理由に、二人が屋敷に居座り続けたのは言うまでもない。
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サラマンダー 「バハムート怖いよぉおお!!」
粗茶 「同じトカゲだろ?仲良くしろ」
サラマンダー 「バハムートもトカゲなんだ……」
粗茶 「この作品では爬虫類っぽいのは大抵トカゲだから」
サラマンダー 「ダメだこの作者適当すぎる!!」
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