北へ⑩
落ち着くシェリーを見てベティがレオンに尋ねる。
シェリーの言葉ではないが、
何らかの対策を講じる必要があるとベティも考えていた。
「レオン、攫われた村人はどうする?お前は放っておくのか?」
「私は何もしない。それはこの国が行うべきことだ」
「でもよ、お前なら直ぐに助けられんだろ?」
「だろうな。だが私は一介の冒険者に過ぎない。勝手に動いて他国に捕らえられた村人を奪い返してみろ。国王や貴族の面子は丸潰れだ。それに、村人を奪い返したことで、獣人たちが本格的に侵攻してくる恐れもある。そうなった場合、私は間違いなく責任を取らされるだろうな。もし全面戦争にでもなれば、被害は今回の比ではない。お前はそれでも助けに行けというのか?」
「だけどよ……」
ベティは納得が出来ないのか、不満そうな顔でレオンをじっと見つめる。
話を聞いていたミハイルもベティの気持ちは分からなくもなかった。助けられる力があるのに何もしないのは間違っているとも思う。
だが、レオンの言うことは最もである。全てはこの国が決めること。
一介の冒険者が勝手に動いてよい事案ではない。
ミハイルはベティとシェリーに向き合い、少し困った顔をしながら口を開いた。
「僕もベティやシェリーの気持ちは分かるよ。助けられる命なら助けてあげたい。でもレオンさんの言ってることは正しい。今後どう動くかは国が決めること、僕らが決めることじゃないよ」
「はぁ~、分かった。この件に関してはもう何も言わねぇよ。シェリーもそれでいいよな?」
シェリーはベティの胸の中で小さく頷いた。
ミハイルは二人の意思を確認すると、レオンに視線を移し深々と頭を下げた。
パーティーを纏めるリーダーとして、発言の責任は自分にもあると思っているのかもしれない。
「レオンさん、僕の仲間が無理なお願いをしてすみません。先ほどの言葉は忘れてください」
「構わんさ。それより、私の使った魔法のことは他言無用だ。先程も言ったが、全てはゆたんぽが暴れたことにする」
レオンの言葉を聞いてベティとウィズが溜息を漏らす。
焼け焦げた草原に獣人たちの
サラマンダーの戦う姿を見ていない二人は、無駄なことだと異を唱える。
「流石にそれは無理があるんじゃねぇか?」
「ベティの言う通りよ。どうすればサラマンダーで辺り一面焼け野原に出来るのよ」
「ん?何だミハイル、村での出来事を教えていないのか?」
「いえ、サラマンダーが炎で獣人を焼き殺したと言っても信じてもらえなくて……。村の周囲の焼け跡も、油でも
(ミハイルの言葉でも信じないとは……。人間不信か?
「まぁよい。
「畏まりました」
レオンが立ち去るフィーアの背中を見送っていると、ミハイルが不思議そうに首を傾げた。
「レオンさん、ポーターと合流しないんですか?」
「いまポーターにこの光景を見せるのは不味い。ゆたんぽが暴れたことにするのだから、ゆたんぽと一緒にいるポーターを連れてきては、嘘が直ぐにバレてしまう」
「確かにそうですが、誤魔化せたとしても、僕たちが誰かに話したらどうするんです?」
「そう言われるとそうだな。ミハイルやシェリーは信用できるが、ベティとウィズは口が軽そうだ。取り敢えず呪いでも掛けるか……」
呪いという言葉を聞いて、みな一様にぎょっとする。
この世界にも呪いはあるが、それは体や心を
呪いという時点で間違いなく碌なものではない。
ミハイルはレオンの顔色を覗うようにおずおずと尋ねた。
「レオンさん、冗談……ですよね?」
「うむ。冗談だ」
ミハイルが胸を撫で下ろすのも束の間。
レオンは神妙な面持ちでミハイルたちを見渡した。
「呪いを使用しなのは、友人としてお前たちを信用しているからだ。そして、友人に裏切られるのは何よりも辛い。だから――もし私を裏切り、誰か一人でも今回のことを話そうものなら、連帯責任として四人全員殺す。分かっているとは思うが、どこに逃げても無駄だ。その気になれば、国ごとお前たちを抹殺することもできるのだからな」
また冗談だろうとミハイルは軽い感じで聞き返す。
「冗談ですよね?」
だが、ミハイルの問いにレオンは答えない。
ただ真っ直ぐに、真剣な眼差しでミハイルの瞳を見つめ、視線を外そうともしない。
そこからはレオンの強い意志が感じられる。
その異様な雰囲気に、ミハイルのみならず、他の三人も思わず息を飲み込んだ。
「わ、分かりました。僕らは何も言いません」
万が一があってはならない。
ミハイルは他の三人に視線を向けて念を押す。
「ベティ、シェリー、ウィズ、君たちもいいね。今回のことはサラマンダーがやったこと。レオンさんは何もしていない」
「でもよ。サラマンダーにそんなことが出来るのか?」
「そうよ、後で追求されたらどうするの?」
「それは、問題ないよ」
「ミハイルの言う通り問題はない。ちょうどゆたんぽも来たことだしな。お前たちにも見せてやる。サラマンダーの本当の姿をな」
レオンの視線の先では、サラマンダーが見る間に近づいて来ていた。
丘の上から見下ろしているため、その速度がよく分かる。腹が地面を擦るくらい足が短いのに、馬の速度を優に超えている。
一体どこからそんな速度が出るんだと疑問に思わずにはいられなかった。だが、今はそのことを論じている時ではない。
レオンは気持ちを切り替える。
サラマンダーはレオンの前で止まり、甘えるように頭を擦り寄せてきた。その頭を
「ゆたんぽ、お前の本来の姿を見せてやれ」
「きゅきゅう」
突如サラマンダーの体を炎が覆う。
その光景にベティとウィズが目を丸くするのを見て、レオンはサラマンダーに次の指示を出した。
「ゆたんぽ、今度はあそこに見える草原で
「きゅう」
大地を焼きながら移動をするサラマンダーに、ベティとウィズは唖然とする。
そして、サラマンダーが
「あれがサラマンダー?嘘だろ?なんだよあれ、いま一瞬にして炎が広がったぞ!」
「ちょっと冗談でしょ?あんなの誰も近づけないわよ!炎の広がり方が異常すぎるわ!」
「嘘でも冗談でもないですよ。レオンさんの話によると、サラマンダーとは炎を操る魔物らしいです」
「…………」
「…………」
二人とも言葉がでない。
戻ってくるサラマンダーを見て二人は思わず後退る。もう既に炎を身に纏ってはいなかったが、恐怖からか自然と体が動いていた。
遠ざかる二人に、レオンはどうだと言わんばかりに胸を張る。
「これで私が問題ないと言った意味が分かっただろ?」
「あ、ああ、そうだな」
「ええ、分かったわ……」
「うむ。分かればよいのだ。今回の件は全てサラマンダーがしたこと。よいな?」
二人は顔を引き攣らせながら、何度も首を縦に振る。
それを見たレオンは、これで大丈夫だろうと、ほっと胸を撫で下ろした。
(情報
それからはやる事もなくなり、暫く時間を潰して過ごした。
念のためサラマンダーには、焼け焦げた草原を走り回らせ、広範囲に足跡を残させている。
余程のことがない限り、これで誤魔化しきれるはず。
レオンはそう考え安堵の溜息を漏らしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
サラマンダー 「これ僕がやったことになるの?」
粗茶 「そうだよ。だから責任もトカゲが取るの」
サラマンダー 「責任?」
粗茶 「草原焼いて二酸化炭素いっぱい出したでしょ?その責任だよ」
サラマンダー 「どうすればいいの?」
粗茶 「取り敢えず呼吸はやめようか?二酸化炭素だしちゃうし」
サラマンダー 「え!?」
粗茶 「それができないなら光合成をしよう」
サラマンダー 「無理だよぉおおおお!」
粗茶 「じゃあ仕方ないね。土に埋まって肥料になろう」
サラマンダー 「まさかの埋葬!!ヽ(+∇+)ノ・・・キュゥ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます