北へ⑨

 青々と草木が生い茂っていた草原は見る影もない。

 大地は真っ黒に焼け焦げ、不快な臭いが丘の上まで漂っていた。

 鼻腔を通り抜ける焦げくさにおいが、この光景が幻でないことを如実に告げている。


 戻ってきたレオンをフィーアが出迎え恭しく頭を下げた。


「お帰りなさいませ、レオン様」

「うむ」


 ミハイルらもレオンに歩み寄り、説明を求めて次々と口を開いた。


「レオンさん、今のは魔法なんですか?」

「さっきのは何だ?空から光が降ってきたと思ったら、草原が焼け野原じゃねぇかよ!」

「その前に使っていた魔法もなに?何処で覚えたのよ?」

「レオンさんがいれば連れ去られた村人も助けられます」


 レオンはどうしたものかと溜息を漏らし、重い口を開いた。


「お前たち、先ほどのことは忘れろ」

「忘れろ?レオンさん、どういう事ですか?」

「全てはゆたんぽのしたことにする。私は何もしていないという事だ」

「はぁ?何言ってんだ。お前がやったんだろ?」

「私にも事情がある。人から注目されては不味いのだ」


 レオンの言葉にミハイルたちは互いの顔を見渡す。

 誰もが無理だろうと肩をすくめた。サラマンダーを騎乗魔獣にした時点でレオンの名は知れ渡っている。

 あの街でレオンの名を知らぬ冒険者は、もはや潜りといっても過言ではない。

 ベティやウィズは今更何を言ってるんだと呆れ返っていた。

 尤も、ウィズの興味はそんなことより魔法にある。見たこともない魔法に胸を躍らせていた。


「それより何処であんな魔法を覚えたのよ?」

「他の大陸だ。詳しい場所は言えない」

「場所を言えない?じゃあ私に魔法を教えてよ」

「無理だな。私は魔法は使えるが教えることは苦手だ。弟子を取るつもりはない」

「いいから教えてよ!ちゃんとお金は払うから!」

「金には困っていない。抑、なぜ私がお前のために時間を割かねばならぬのだ。まったく馬鹿馬鹿しい」

「ちょ!なんですって!私はこれでも天才魔術師って呼ばれてるのよ!その私に――」

「ウィズ、あっちで少し落ち着こう」


 見かねたミハイルがウィズの手を引きなだめに入った。

 話が途切れると、間髪入れずにシェリーが口を開く。


「レオンさん、連れ去られた村人を助けに行きましょう!」

「馬鹿な事を言うな。私は目立ちたくないと言ったはずだ」

「でも、あれだけの魔法が使えるなら――」

「分かっているのか?お前のせいで仲間は危険にさらされたのだぞ。もし私が戦わなければ、お前は仲間を巻き込んで死んでいた。私に何かを求める前に先ずは反省をしろ!」

「…………」


 シェリーもそれは自覚していた。

 仲間を危険に晒したことはシェリー自身が誰よりも分かっている。

 今回生き延びたのは奇跡のようなもの。偶々たまたまレオンが凄い魔法を使えたからに過ぎない。本来であれば間違いなく全滅している。

 それだけに返す言葉が見つからなかった。

 表情に影を落とすシェリーを見て、ベティがニカッと笑いかける。


「まぁ、終わったことだ。気にすんな。みんな生きてんだからいいじゃねぇか」


 ベティはシェリーの頭をぐしゃぐしゃ撫でまわし、最後は力強く抱きしめた。


「そんなに落ち込むな。誰にだって失敗はあるさ」


 ベティの優しい言葉に、シェリーは涙が溢れそうになる。

 その涙を堪え「うん」と、頷き返すと、シェリーはベティの胸の中で何時もの穏やかな表情に戻っていった。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


サラマンダー 「そう言えば、僕ずっとご飯食べてないよ」

粗茶 「嘘つけ!さっき食っただろ?」

サラマンダー 「いつ?」

粗茶 「ドラゴン退治した日に食っただろ?まったく厚かましいやつだ!」

サラマンダー 「え?それもう何日も前だよ?」

粗茶 「なに?もしかして毎週ご飯が食べたいのか?なんて図々しいトカゲだ」

サラマンダー 「ま、毎週?、一日三食じゃないの?」

粗茶 「お前どこのセレブだよ!トカゲのご飯は一ヶ月に一回って法律で決まってんだよ!」

サラマンダー 「なに、このトカゲに厳しい世界。ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル」

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