北へ⑤

 レオンは炎魔人イフリート吐息といきを見て「はぁ?」と、つぶやいていた。


(ゆたんぽぉおおお!!お前ほんとにサラマンダーか?それ魔神クラスの魔物が使うスキルだぞ……。あとステータスちょっとおかしいだろ?明らかにレベル32の強さじゃないからな。もしかしてノエルが何かしたのか?後でちゃんと話を聞かないと駄目だな……)


 だが、サラマンダーの強さに驚いていたのはレオンだけではない。

 焼かれる獣人たちを見ながら、ミハイルとシェリーは口をぽかんと開けていた。

 魔法や弓矢で援護?もはや援護の必要性など微塵も感じられない。ミハイルは何の冗談だと苦笑したくなる。

 何より恐ろしいのは、あのサラマンダーに自分たちが襲われることだ。


「レオンさん、僕たちは森から出ても大丈夫なんでしょうか?」

「後は村に残る獣人だけだ。ここから見る限りでは、物見櫓に数人と、村の入口に数人、数はそれ程多くないように見える。森から出て、村の制圧をした方がよいだろうな」


 レオンの言葉にミハイルは顔を顰めた。

 聞きたいのはそういう事ではない。あのサラマンダーは襲ってこないのかを聞きたいのだ。

 レオンはゆっくりと立ち上がり、草原に足を踏み入れる。ミハイルとシェリーも、サラマンダーに警戒をしながら後に続いた。 

 周囲には焼け焦げた獣人の死体が散乱し、熱せられた大地からは湯気が立ち込めている。

 寒い時期だというのに大気は熱を帯び、立っているだけでも汗が滲むほど熱い。

 サラマンダーはレオンが近づくと、炎を収めて何時いつもの形態に戻っていた。

 まだ獣人がいると教えたいのだろう。嬉しそうにレオンに近づいては、村の入口に視線を向けて鳴いている。

 レオンはサラマンダーの頭を撫でると労いの言葉を掛けた。


「ゆたんぽ、ご苦労だったな。後は私たちに任せろ」

「きゅう」


 レオンに従うサラマンダーを見て、ミハイルとシェリーは、ほっと胸を撫で下ろした。

 万が一にも襲われようものなら、助かる見込みは皆無である。


「レオンさん、この村は出入り口が一つしかありません。簡単には逃げられないでしょうから、先ずは降伏を呼びかけては如何でしょうか?」

「うむ。聞きたいことも――ん?どうやらその必要はなさそうだな」


 レオンの視線の先にいたのは、両手を上げて投降する獣人たちの姿であった。

 サラマンダーがレオンに従っているのを見て、助けてもらえると思ったのかもしれない。

 実際、多くの仲間が焼き殺され、獣人たちの戦意は既に失われていた。

 その瞳は縋るようにミハイルに向けられている。


「降伏する!殺さないでくれ!」


 代表と思しき獣人が声を張り上げた。

 数は全部で九人、全員武器は持っていない。

 獣人たちはサラマンダーに警戒しながらも、両手を上げてレオンたちに近づいてきた。


「止まれ!」


 ミハイルの声に獣人たちは動きをピタリと止めた。

 獣人は武器を持っていなくとも、牙や爪で十分に戦える。

 不用意に近づければ何があるか分からない。

 ミハイルは安全な距離を保ちながら、獣人たちに質問を投げ掛けた。


「残っている獣人はこれだけか?」

「そうだ。降伏するから命だけは助けてくれ」


 レオンは獣人たちの言葉に怪訝そうな顔をする。

 領域探査エリアサーチの魔法では、村の中にはまだ生きている獣人、しくは人間が存在していた。

 しかも、それは村の中を自由に動き回っている。もし捕らえられた人間であれば、助けを求めて村から出てきそうなものだ。

 レオンは真意を問うため口を開く。


「一つ聞きたい。村の人間はどうした?」

「村の奥に生かして閉じ込めている」


 それを聞いたミハイルとシェリーの表情が少し和らいだ。

 だが、レオンの表情は逆に険しくなる。村の奥に生命反応はない。


「ミハイル、こいつらの言うことを間に受けるな。私が中に入り確かめる」

「レオンさん?どういうことですか?」

「恐らく罠だ。ゆたんぽ、この獣人が妙な動きをしたら殺せ」

「きゅう」


 レオンはそれだけ告げると、村の入口に向けて歩き出した。

 すれ違いざまに数人の獣人がレオンを睨みつける。それは投降する者の目ではない。明らかに敵意を持っていた。

 レオンは村に歩きながら、通話機能でヒュンフに命令を下す。


『ヒュンフ、傍にいるか?』

『はっ!傍に控えております』

『村にいる生存者を探して報告せよ』

『はっ!暫しお待ちを』


 レオンはゆっくりと村の入口まで歩き、慎重に中へと足を踏み入れた。

 村の中は一見すると、それほど荒らされていないようにも見える。

 だが、所々に血痕が付着し、この村が襲われたことを物語っていた。


『レオン様、生存者は三名、全て獣人でございます。家屋に油を巻いて回っているようです』

『全員捕らえて連れて来い』

『はっ!』


 それからは早かった。一分もしないうちに、獣人たちがレオンの前に差し出される。

 獣人たちは体を麻痺させられ、言葉も話せない状態になっていた。


「ヒュンフ、ご苦労だったな。もう下がってよいぞ」

「はっ!」


 姿を消すヒュンフを確認し、レオンは獣人たちに視線を移した。

 体が動かない獣人たちは、牙を剥き出し、威嚇するのがやっとの状態である。

 レオンは身動きできない獣人の手を掴むと、勢いよくミハイルがいる場所に放り投げた。そして全員投げ終わると、自らも後を追うように村を飛び出る。

 突如空から降ってきた獣人を見て、ミハイルは困惑し、獣人たちは動揺する。

 いつの間に戻っていたのか、両手を上げる獣人たちの背後にはレオンが佇んでいた。


「ミハイル、人間の生存者はいない。こいつらが村の中に油をいていた。私たちを村の奥におびき寄せ、火を放って殺すのが目的だろう」


 レオンの言葉を聞いて、ミハイルが信じられないと声を上げる。


「人間の生存者がいない?そんな馬鹿な!この村には千人以上の村人が暮らしていたんですよ!」


 だが、レオンの言葉を肯定するかのように、獣人たちが動き出す。

 工作兵を失い、もはや獣人にあやがすべは残されていない。

 だが、如何に戦意が失われようと、餌である人間に屈することは出来なかった。

 獣人たちは目配せをすると、近くにいたレオンへ一斉に襲い掛かる。

 だが、その牙がレオンに届くことなはい。

 それより早く、サラマンダーの長い尻尾が獣人たちの体を吹き飛ばしていた。

 倒れた獣人に追い討ちをかけるように、サラマンダーの牙や爪が突き刺さる。

 獣人たちは内蔵を潰され口から血を吐き出し、怨嗟えんさの声を上げながら次々と息絶えていった。

 






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


サラマンダー 「魔神のスキル!!僕もしかして魔神になれる?」

粗茶 「トカゲはどんなに頑張ってもトカゲだから。いい加減に身の程を知ろうよ」

サラマンダー 「僕、トカゲじゃないよ?サラマンダーだよ」

粗茶 「この作品の中ではどちらも唯のトカゲです!(`・ω・´)諦めよう」


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