北へ②

 街を出てから既に二日、幾つかの村に立ち寄りながら、レオンたちは城塞都市ベルカナンに着実に近づいていた。

 ミハイルの話では、このまま順調に行けば、明日にもベルカナンにつくとのこと。

 最初に連絡が取れなくなってから、優に半月は経つ。

 もし、ベルカナンが落ちているなら、いつ獣人と出くわしてもおかしくはない。

 自ずと周囲への警戒心も高まっていた。

 尤も、レオンは探知系の魔法で、周囲に敵がいないことを知っている為、呑気なものである。

 レオンが退屈そうに何度も欠伸あくびをしていると、ベティがレオンの隣に馬を並べ、、これみよがしに「やれやれ」と、肩を竦めてみせた。


「もう少し緊張感を持て!襲って来るのは獣人だけじゃないんだぞ?魔物だっているんだからな」

「注意はしている。問題はない」


 そう言いながらも欠伸あくびが出てしまい、レオンは慌てて口を手で覆った。

 その態度に呆れたのか、ベティは深い溜息を漏らすと、レオンに警告をする。


「分かっているのか?今回の依頼は命懸けだ。もしベルカナンが落ちているなら、近づくだけでも命に関わる」

「大げさな……」

「はぁ~。お前は知らないようだが、ベルカナンには魔導砲が備え付けられている。獣人共に奪われていたら、それだけでも脅威になるんだぞ?」

「魔導砲だと?」


 魔導砲。その言葉にレオンは反応する。

 レジェンド・オブ・ダークにおいても魔導砲は存在していた。

 対ギルド戦専用防衛兵器、魔導砲、破壊の根源オリジン・オブ・カタストロフィ

 それは、究極の攻撃魔法の一つ、破壊の根源オリジン・オブ・カタストロフィを放てる課金アイテムである。

 これにも勿論、冷却時間という名の再詠唱時間リキャストタイムが備わってはいるが、その一撃の破壊力は、今のレオンにでさえダメージを与えかねない。


(もし、ゲームの魔導砲と同じなら、放たれる魔法は究極の攻撃魔法。俺やフィーアはなんとかなるが――他の奴らは全員死ぬぞ……)


 ベティはレオンと初めて視線が合うと、「ふん」と鼻を鳴らした。


「何だ?興味があるのか?」

「ああ、出来れば詳しく教えて欲しい」

「いいぞ。魔導砲は強力な魔法を撃ち出す兵器だ。何でも炎を撃ち出すと聞いたことがある」


(炎だと?俺の知ってる魔導砲と違うな。この世界独自の魔導砲なのか?)


 レオンが怪訝そうに悩んでいると、一頭の馬が下がってきた。

 馬に乗っていたのは、ミハイルの取り巻きの女性。狩人ハンターのシェリーと、魔術師のウィズである。

 二人の話を聞いていたのだろう。ベティの言葉をウィズが否定した。


「ベティ、炎じゃないわよ。前にも教えたでしょ?突風火球ブラストファイヤーボールよ」

「そうだったか?まぁ、どっちにしろ炎を出すことに変わりないだろ?ウィズは細かいんだよ」

「ベティが大雑把過ぎるのよ!」


 項垂れるウィズであったが、レオンの視線に気付いて更に嫌な顔をする。


「何よ?」


(うわぁ、不機嫌そうだ……。冒険者ギルドで舌打ちしたのも、確かこの子だよな……)


 レオンは話しかけるのを躊躇するも、ウィズが話していた突風火球ブラストファイヤーボールが気になった。

 恐らく名前から、突風ブラスト火球ファイヤーボールを掛け合わせた魔法なのだろうが、ゲームの時には存在しない魔法である。

 しかも、それが魔導砲から放たれると聞かされては、尋ねないわけにはいかない。 


「その突風火球ブラストファイヤーボールとは何だ?突風ブラストの魔法と、火球ファイヤーボールの魔法を同時に放つのか?」


 レオンが尋ねると、ウィズは渋々口を開いた。

 その如何にも嫌そうな暗い声に、手綱を握るシェリーが苦笑いを浮かべる。


「魔導砲に魔力を充填すると、火球ファイヤーボール突風ブラストで撃ち出されるのよ。通常の火球ファイヤーボールより射程も長いし威力もあるわ。纏めて数十人吹き飛ばすこともできるのよ」


(なんだ……。所詮は火球ファイヤーボールか。聞いた限りだと、威力自体は大したことはないな。それよりも魔導砲だ。魔力を充填するとはどういう事だ?)


「もう一つ聞きたい。魔力を充填とはどういう事だ?」

「う、煩いわね。そんなこと私も知らないわよ」

「何だ知らないのか……」


 レオンが肩を落とすと、ウィズが目に見えてムッとする。


「知らなくて悪かったわね!そもそも、私はこんな依頼は反対だったのよ。下手したら、その魔導砲の標的になるのよ。冗談じゃないわ。本当はミハイルを説得して断るはずだったのに……」


(それで、俺が手伝うと聞いて舌打ちをしたのか……)


 レオンが顔を顰めていると、シェリーがウィズをなだめていた。


「レオンさんが悪いわけじゃないだろ?それに、魔導砲の射程距離は分かっているんだから、射程距離に入らなければどうってことないよ」

「そうなんだけどさ……」


 シェリーは貞腐れるウィズを尻目に、レオンに軽く頭を下げる。


「レオンさんもすみません。この子は冒険者になって、まだ日が浅いんです。許してください」

「別に構わんとも。私も冒険者になったばかりだ。不安に思うのも無理はない」

「ありがとうございます」


 シェリーは一言そう告げると、ニコッと笑顔を見せた。

 その笑顔を見ながらレオンは思う。

 ベティは脳筋、ウィズは生意気、シェリーは良い子、何かあったらシェリーは守ってやろう、と。


 途中で一度馬を休ませ、また街道を突き進む。

 代わり映えのしない景色が続く中、不意にミハイルが馬を止めた。

 一点をじっと見つめ険しい表情になる。

 その視線の先では黒い煙が上がり、その煙を見て、ベティやシェリー、ポーターたちも表情を曇らせた。

 レオンは領域探査エリアサーチの魔法を使い、頭の中に広がる敵影を見てほくそ笑む。


(いよいよ獣人とご対面かな?さて、どうなることやら……)


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