冒険者④

「お二人も空いている椅子に座ってください」


 ニナの言葉に従い、二人は空いている椅子に腰を落とし、冒険者と思しき男女に視線を移した。

 男性が十一人、女性が三人、その殆どが剣を携え、鎧を身につけている。

 手首に嵌めている腕輪ブレスレットの色は金色が大半を占めており、その輝きだけで自分たちより数段上のランクであると認識させられた。


 同じように相手もレオンの腕輪ブレスレットを確認したのだろう。顔を顰めているのが見て取れた。

 空気が重くなる中、ニナが場を和ませるように口を開いた。


「お互いの名前が分からなくては困るでしょうし、先ずは自己紹介をしませんか?」


 そう告げると、ニナは視線をレオンに向けた。

 その仕草は名乗ってくださいと物語っている。恐らくランクが下の者から名乗るのが礼儀なのだろう。

 レオンはニナに頷き返すと、胸を張り自己紹介をする。


「私の名はレオン・ガーデン。隣に座るのは妻のフィーア・ガーデンだ。よろしく頼む」


 レオンの尊大な物言いに、ニナが僅かに顔を引き攣らせていた。

 偉そうな態度に耐えかねたのだろう。ブラウンの髪をした偉丈夫が、訝しげに口を開いた。


「随分と偉そうな奴だな?お前Gランクだろ?」

「ガストンさん、先ずは自己紹介ですよ」

「……まぁ、ニナちゃんがそう言うなら仕方ない。俺の名前はガストン、戦空のつるぎのリーダーをしている」


 レオンは筋肉隆々の男を見て頷いた。


(こいつは筋肉馬鹿って感じだな。真っ先に突っ込んで、最初に死ぬに違いない。今うちに拝んでおこう。南無南無南無――生意気だから地獄に落ちますように……)


 ガストンが視線を隣に移すと、20代前半と思しき優男も自己紹介を始めた。

 金髪が綺麗な青年で、何処か中性的な顔立ちをしている。


「僕の名前はミハイルです。竜の牙ドラゴンファングのリーダーをやっています。若輩者ですがよろしくお願いします」


(随分と細いな。接近戦は無理だろうから、もしかしたら魔術師かもしれない。礼儀正しい好青年じゃないか、危なくなったら守ってやろう)


 ミハイルが丁寧に頭を下げると、隣に座る20代後半と思しき男が口を開いた。

 金髪碧眼で見るからに軽薄そうな男は、先程からずっとフィーアのことだけを見ている。


「俺の名前はベイクだ。獣狩りビーストハンターのリーダーでもある。よろしくな」


 ニカッと笑みを浮かべて、あからさまにフィーアへとアピールをする。


(フィーアは俺の妻だって言っただろ!こいつは許せん!ノエルに連絡して、真っ先にサラマンダーの餌にしてやる!)


 ベイクの紹介が終わると、ニナが一同を見渡した。

 重苦しい空気は僅かに緩んではいるが、なんとも微妙である。

 そんな空気を払拭するかのように、ニナは努めて明るく声を上げた。


「パーティーリーダーの紹介も終わりましたし、ドラゴン討伐にガーデン夫妻を参加させるか話し合いましょうか」


 その言葉を聞いて、レオンも心機一転気持ちを切り替える。


(さて、つまらん冗談もここまでだ。どうにかしてドラゴン討伐に潜り込まないとな)


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