冒険者②

「なるほどな。それでドラゴンの討伐に人が群がっていたのか」

「えっ?いや、逆ですよ。ドラゴンの討伐は上位ランクの冒険者でも命懸けです。一般の冒険者は見向きもしません」

「ん?おかしいではないか?ではなぜ掲示板の前に人が群がっていたのだ?」

「あれは依頼を受けたくても受けられない冒険者です。外に出るのは危険なので、街中の依頼が来るまで張り込んでいるんですよ」

「ちょっと待て!では、サ……、ドラゴンは放置するのか?」


 ニナは「まさか」と、乾いた笑い声を上げた。


「流石に放置はいたしません。上位ランクの冒険者が集まり次第、討伐に向かわれます」


(上位ランクの冒険者か……。この世界独自の魔法やスキルが見られるかも知れないな)


「ドラゴン討伐に私たちも参加できるか?」

「それは無理かと……。初心者が入ると足手纏あしでまといになりますし、報酬が減ることで嫌がる冒険者もいますから」

「報酬は必要ない。それに私たちは二人とも魔法が使える。後方支援をするだけなら問題はないはずだ」

「それでしたら確かに……。参加できるかは分かりませんが、話だけはしてみます」

「よろしく頼む」


 話しをしている間に書類は完成したのだろう。ニナは書類を持って部屋を出て行った。

 暫くすると、金属の腕輪ブレスレットを持って戻ってくる。それを二人に手渡し冒険者としての基礎知識を話し始めた。

 冒険者になる際に必ず行われる説明なのだとか。

 ギルドについて長々しい説明が行われたが、要点を言えば、依頼の最中に命を失っても、冒険者ギルドは責任を負わないということ。

 全ての依頼は自己責任の元に行われるという内容であった。

 その他にも、冒険者のランクのことや依頼の受け方など、多岐に渡って丁寧に説明が行われた。


「――と、いうわけです。ここまでに質問はございますか?」


(なるほど。要は冒険者ギルドは一切責任を取らない。仲間が死のうが手足を失おうが、保証は何もないと言いたいわけだな)


「問題ない。話を続けてくれ」

「では最後に、先ほど渡した金属の腕輪ブレスレットは、冒険者の身分を明かすものです。冒険者のランクが一目で分かるように、ランクにより異なる金属が使用されています。これは街への出入りなど、頻繁に見せる機会がありますので、手首に付けることを推奨しています。自分の手首から外れないよう、しっかりと固定してください。また、紛失した際には再発行もできますが、戒めのため高額な手数料を取られますので、十分ご注意ください」


 ニナの助言に従い、レオンは腕輪ブレスレットを利き腕とは逆の左手首にめた。

 利き腕に嵌めた場合、激しい戦闘の際に外れてしまう恐れがあるとのこと。

 レオンとフィーアが腕輪ブレスレットを嵌めたのを確認して、ニナは最後に問いかける。


「これまでに質問はございますか?」

「問題ない」

「では、説明はこれで終了いたします。上位ランクの冒険者が集まりましたら、お二人のことを話してみますね。それまでこの部屋でお待ちいただけますか?」

「無論構わん。無理を言っているのはこちらだしな」

「時間が掛かるかもしれません。後でお茶をお持ちします」

「すまないな」


 ニナは微笑み返し部屋を後にする。

 レオンはその後ろ姿を見送り、腕輪ブレスレットに視線を向けた。

 それは、鉄で出来た何の変哲へんてつもない腕輪ブレスレット。そこには、レオン・ガーデンと名前が刻み込まれているだけであった。


(最低のGランクか……。俺だったら初心者は絶対に断る。それを考慮するなら、ドラゴン討伐に参加できる可能性は低いのかもしれない。尤も、透明化の魔法で尾行することもできるんだが――どうしたもんかな……)


 そう、討伐に参加せずとも、近くで冒険者を観察する方法はいくつかあった。

 しかし、冒険者がそれらの魔法を看破しないとも限らない。隠れて高みの見物をしても、見つかる可能性は十分にある。

 もし見つかろうものなら、怪しまれるのは勿論のこと、その言い訳に困るのも明白である。

 討伐に参加し、堂々と冒険者の側にいることが最良であった。

 そのためレオンは切に願う。

 出来ればドラゴン討伐に参加できますように、と。


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