冒険者①

 時刻は正午前。

 繁華街を通り抜けながら、レオンとフィーアは昨日よりも人が少ないことに少し違和感を覚えた。

 目を擦り眠そうにしている住民が彼方此方あちこちに見受けられる。

 恐らくレオンの魔法による影響であろうが、そんなことは二人にとって然したる問題ではない。

 気に止めることもなく冒険者ギルドへとやってきた。


 しかし、冒険者ギルドの中は昨日とは一変していた。

 掲示板の前は大勢の冒険者で溢れ返り、移動するのも困難な状態である。

 レオンは人混みを掻き分け、比較的空いているカウンターの前で一息ついた。


(なんだこの人集ひとだかりは?掲示板の前に人が集まっているということは、何か報酬のいい仕事でもあったのか?まぁ、どうでもいいや。早く手続きを済ませよう)


 レオンがカウンターに振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべるニナがいた。


「いらっしゃいませレオンさん、今日はどのようなご要件でしょうか?」

「冒険者になりたい。手続きをしてくれないか?」

「冒険者?レオンさんがですか?」

「私と妻の二人だ。お前は他国の人間でも冒険者になれると言っていたな。問題はないはずだ」

「確かにそうですが、冒険者には危険がともないます。本当によろしいのですか?」

「構わん」

「……畏まりました。それでは冒険者ギルドへの入会金として、銀貨4枚いただきます」


 レオンは懐に手を入れ、手の中に銀貨を8枚取り出した。

 それをカウンターの上に置いてニナに視線を向ける。


「これでよいか?」

「あの……、二人分で銀貨4枚になります」

「そうなのか?では残りの4枚は手間賃としてお前にやろう。私の代わりに書類の記入もしてもらうことになるしな」

「えっ!いいんですか?」

「構わん」

「それでは遠慮なくいただきますね。ここは少し騒がしいので、昨日と同じ部屋にご案内いたします」


 ニナはホクホク顔で隣に座る同僚に視線を移す。

 「エミー、後はよろしくね」と、告げて席を立つと、同僚のエミーは射殺さんばかりにニナを睨みつけていた。

 だが当の本人はまるで気にする様子もない。その視線を飄々ひょうひょうと受け流し、二人を奥の部屋へと案内していった。

 通された部屋は相変わらずの狭さではあるが、扉を閉めると外の喧騒とは無縁の空間になる。

 この部屋が防音であると確信させるには十分な判断材料であった。


「やはりこの部屋は防音なのか……」


 何気なく呟いたレオンの言葉をニナは拾い上げた。

 昨日の時点でレオンとフィーアの情報は入手しているため、普通に会話をしながらニナは書類を書き進めていた。


「その通りです。よくお分かりになりましたね」

「外の声が全く聞こえないからな。今日は随分人が多いが何かあったのか?」

「何でも西の街道にドラゴンが出たそうです。それで昨日の夕方から冒険者が押しかけてきているんですよ。お陰で私も昨日はここに泊まり込みです。朝は中々起きられないし、一階に顔を出したらみんな床で寝てるし、もう散々ですよ」


(それは俺の魔法のせいです。ごめんなさい……。それにしても西の街道にドラゴンか、まさかな……)


 レオンには何となく心当たりがある。

 昨日の今日で自分たちが来た街道でドラゴン騒ぎ、レオンの脳裏を張り切っているサラマンダーの姿が過ぎった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


サラマンダー 「えっ!?僕、頑張ったのに殺されるの?」

粗茶 「頑張ったから殺されるんです」

サラマンダー 「そんな理不尽な!」

粗茶 「世の中理不尽な事だらけ、精々抵抗するがいい。わっはっはっはっは……」

サラマンダー 「そんなぁぁあああああ!!」



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