街⑰

 四階に行くと直ぐにそれらしき場所は見つかる。

 他の部屋よりも一回り大きな扉、金で出来た豪華な取っ手。他の扉とは違う装飾に、ここが公爵の部屋であるとレオンは確信する。


 扉を開けると広い空間が現れ、中には豪奢なソファセットや天蓋付きのベッドが置かれていた。

 ベッドの傍に置かれたスタンド付きの魔道具マジックアイテムが、オレンジ色の暖かな光で周囲をほのかに照らしている。

 レオンはベッドに歩み寄り、閉ざされた天蓋を開けた。

 そこでは、30代と思しき金髪の男性が寝息を立て、その上に少女が覆い被さっている。

 二人とも全裸であることから、つい先程まで行為にふけっていたのが見て取れた。


 レオンは少女の裸を見て眉をひそめる。

 少女の全身は赤黒く変色し、真新しい傷も多数見られた。

 顔が無傷であることが唯一の救いではあるが、体は見るに堪えない状態である。


(聞いていた人相と一致するし、この男が公爵で間違いないな。……それにしても酷いことをする)


 自分のことを棚に上げて、何を思っているんだとレオンは苦笑する。自分とて人を殺す命令を下しているのに、と。

 フィーアも傷だらけの少女を視界に捉えてはいるが、さして気にする様子もない。

 少女の傷を癒すこともなく、淡々とレオンに話しかけた。


「レオン様、この男が公爵でしょうか?」

「恐らくそうだろう。聞いていた人相とも一致する」

「では、殺してしまいましょう」


 フィーアが公爵に手を伸ばそうとするも、レオンはそれを静止した。


「よせ。暗殺者は戻らず公爵が殺されたら、それらを知る人間はどう思う。私たちが殺したと、真っ先に決め付けると思わないか?いま公爵に死なれては困る」

「では、どういたしましょうか?」

「この男には傀儡くぐつになってもらう。公爵という地位は捨て難い。色々と役に立つだろうからな」


 フィーアは「なるほど」と、納得して頷いた。

 確かに殺すよりも傀儡かいらいとして生かした方が実入りは良い。それは公爵の権力と、全財産を手に入れるということ。

 襲われた不快感を差し引いても悪い話ではなかった。

 フィーアは早速行動に移る。


「レオン様、それでは人形使いドールマスターのアンナを連れてまいります」

「頼む」


 レオンが頷き返すと、フィーアは転移の魔法で姿を消していった。

 残されたレオンは少女の体に視線を移して思いに耽ける。


(俺やフィーアが普通の人間なら、今頃フィーアも酷い目に合っていたんだろうか……)


 それはただの気まぐれなのかもしれない。レオンは少女に手をかざして魔法を唱えていた。


「[回復ヒーリング]」


 見る間に傷は消えてなくなり、本来の白い肌が姿を現す。

 傷が癒えたことが原因であろうか。少女は心地よさそうに寝返りを打つと、隠れていた秘部があらわになる。

 仰向けになった少女の裸が視界に入り、レオンの視線は自ずと、少女の胸や股間に釘付けになった。

 レオンとて健全な男性である。その行為を誰が責められようか。見入るようにその場に佇み、暫くの間は視線を外すことができなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


傀儡政権っていいですよね。

好き勝手しても責任取るのは人形ですから。

尤も、話がそっちの方向に行くかはまだ分かりませんが……


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