街⑯

 眠りける衛兵たちを素通りし、二人は難なく公爵邸の敷地内に足を踏み入れた。

 目の前には手入れの行き届いた庭園が広がり、遥か先に小さく建物が見える。

 恐らくその建物が公爵邸であろう。真っ直ぐに石畳が伸び、道なりに外灯が仄かな光を放っていた。

 二人は並んで歩みを進める。

 庭園の中心には歴代の公爵だろうか、男性の石像が置かれており、そこから更に左右に道が伸びていた。

 その先にも大きな建物が建てられてはいるが、正面の建物に比べると、華美な装飾もなく見劣りするため、それらは使用人の住居であろうことが覗える。

 レオンは歩きながら、未だ発動中の万物の瞳ユニバースアイで、遠くの建物を観察していた。


(間違いなく正面の建物が公爵邸だな。造りが凝っているし、左右の建物より一回り大きい。何より左右の道には外灯がない。光は真っ直ぐ正面の建物に伸びている)


「フィーア、恐らく正面の建物に公爵がいる」

「それでは建物もろとも魔法で消滅いたします」

「……いや、その必要はない。勝手なことはするな」

「畏まりました」


 レオンはフィーアに気付かれないよう、小さく溜息を漏らした。


(本当に頼むから目立つことはしないでくれ……)


 敷地内に入ってから30分は経つだろうか。レオンは西洋風の庭園に目を奪われたこともあり、魔法を使わず、態々わざわざ広大な敷地を歩いて移動していた。

 しかし、その至福の時間も終わりを告げる。レオンは足を止めて目の前の建物を見上げた。

 石造りの立派な建物で、正面の扉には趣向を凝らした彫刻が施されている。

 その前では衛兵と思しき男たちが、扉にもたれて深い眠りに落ちていた。

 レオンはその扉を押し開ける。扉に凭れた衛兵が床に倒れるも、誰一人起きる気配がない。


 公爵邸の中に一歩足を踏み入れると、そこは外の暗闇とは別世界であった。

 エントランスは、天井から吊るされたシャンデリアで明るく照らされ、品の良い調度品や、肘掛付きの椅子なども置かれている。

 この世界では電化製品を見たことがないため、シャンデリアは恐らく魔道具マジックアイテムなのだろう。

 だが、今まで見てきた魔道具マジックアイテムの微かな光とは訳が違う。強い光を放ち、それ一つで広いエントランスを隅々まで照らしていた。

 肘掛付きの椅子は、来客を待たせる間に座ってもらうためであろう。公爵と言うだけあり、心配こころくばりは行き届いているのかもしれない。


(確か公爵の部屋は、四階の一番奥だったな)


 レオンは捕らえた男から聞いた話を思い出し、四階の公爵がいる部屋へと足を向けた。



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