街⑮

 レオンが思い悩んでいると、三人の男をズルズル引きずりながらフィーアが戻ってきた。


「レオン様、男たちを連れてまいりました」

「ん?あぁ、ご苦労だった。[転移門トランスゲート]」


 レオンが魔法を唱えると、夜の草原を切り裂くように、暗闇より更に深い漆黒の空間が出現する。

 それは渦を巻きながら徐々に大きさを増し、人間の倍以上の大きさに膨れ上がる。


「フィーア、転移門トランスゲートを拠点の牢獄エリアと繋げた。この中に男たちを放り込んでおけ」

「畏まりました」


 フィーアは男たちを次々と渦の中に放り込む。

 捕らえた男たちを牢獄に移し終えると、レオンは転移門トランスゲートを閉じ、通話機能でアインスに語りかけた。


『アインス、聞こえるか?』

『レ、レオン様?どうなされたのでしょうか?』

『少し頼みごとがある。時間はあるか?』

『はい。勿論でございま……、ちょっと!それ私の枕よ!早く返しなさい!』


(はぁ?枕?何をやっているんだ……)


『あぁ、アインス?もし忙しいなら他の者に頼むが――大丈夫か?』

『だだ、大丈夫でございます。ご要件をどうぞ』

『そうか……。では、お前に頼むとしよう。捕らえた人間を牢獄に入れておいた。そいつらは再詠唱時間リキャストタイムを無効化し、尚且つ、レベルに関係なくアイテムを装備できる恐れがある。徹底的に情報を引き出し、それらを解明して欲しい。お前に任せて大丈夫だな?』

『はっ!直ぐに取り掛かります。……いい加減に枕を――』


(あっ、切れた……。随分と騒がしかったが――本当に大丈夫なのか?)


「レオン様、如何されましたか?」


 レオンが訝しげな表情で佇んでいるのが気になったのだろう。

 フィーアが心配そうにレオンの顔を覗き込んでいた。


「いや、何でもない。それよりも公爵のところに挨拶をしに行かなくてはな」

「ではお供いたします」


 二人は転移の魔法で東門の近くに出ると、念のため通行証をもらうべく、態々わざわざ門から街中へと入った。

 男から聞いた場所を目指し歩みを進め、それらしき場所を発見する。

 広大な敷地を囲むように、背丈の高い壁が何処までも続き、更に壁の上からは、先が尖った鉄の棒が所狭しと生えていた。

 そのまま壁沿いにどれだけ進んだろうか。やっと入口と思しき門が見えてくるが、その近くには衛兵が佇み周囲に目を光らせている。

 レオンは少し離れた場所で衛兵の様子を覗う。衛兵は少なくとも、視認出来るだけで六人はいる。流石は公爵邸と言ったところだろうか、警備は厳重になされ衛兵にも隙がない。

 別に門から律儀に入らずとも、浮遊レビテーション飛行フライ飛翔レイウィングなど、空を飛べる魔法で何処からでも侵入は可能であった。もっと言えば、軽くジャンプをしただけでも壁は飛び越えられてしまう。

 しかし、レオンは敢えて堂々と、入口から侵入しようとしていた。


(警備は厳重だな。魔法――透明化インビジブル――を使えば見つからないだろうけど、騒ぎを聞きつけて、衛兵が屋敷になだれ込む恐れもある。やはり、ここで処理していくのが一番だな)


「衛兵には悪いが、暫くの間眠ってもらうぞ。[眠りの霧スリーピングミスト]」


 衛兵を中心に深い霧が発生し、それは見る間に街中を覆い尽くす。

 頭の中に広がる効果範囲のイメージに、レオンは自分の魔法に驚愕していた。


(えっ!?……効果範囲広すぎない?)


 その魔法の威力に、フィーアが瞳を輝かせる。


「まさか、街中の全てを魔法で包み込むとは。流石はレオン様でございます」

「そ、そうか?」


 レオンは困惑しながらも返答をする。


(あれぇ?おっかしいな……。俺は衛兵だけを眠らせるつもりだったのに……。もしかして俺の魔力が高すぎるせいか?魔法の威力は魔力に比例するからな。そう考えると少しは納得できるが――それにしても街全体は有り得ないだろ?)


 この時レオンは思う。範囲魔法はなるべく使うまいと……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


浮遊レビテーション:低速移動可能

飛行フライ:高速移動可能

飛翔レイウィング:高高度高速移動可能


この作品の中では下に行くほど上級の魔法になります。

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