街⑭

 話が終わるのを見計らうように、上空からフィーアが舞い降りてきた。

 ふわりと大地に降り立つ様は、天使と見まごうほど美しい。

 フィーアは開口一番レオンの身を案じる。


「レオン様、お怪我はございませんか?」

「この通り問題ない」

「それは何よりでございます。それと、先ほどの戦闘で気になることがあったのですが……」


 言葉尻を濁すフィーアに、レオンも同意するように話しかける。


再詠唱時間リキャストタイムのことだな?」

「はい。初めは三重詠唱トリプルキャストかと思ったのですが――」

「お前の言いたいことは分かる。本来、同じ魔法を短時間に唱えるには、二重詠唱ダブルキャスト三重詠唱トリプルキャストしか方法がない。それらはMPマジックポイントの消費は大きいが、同じ魔法をに複数放つことができる。しかし……」


 レオンは虚ろな瞳で呆然とする男に視線を向けた。


「この男の魔法には時間差タイムラグがあった。しかも放たれた魔法の矢は30以上、明らかに再詠唱時間リキャストタイムを無効化している」


 それはレオンたちにとって驚異になりかねない。もし強力な魔法を連続で唱えることができるのなら、それはレオンたちの命を脅かす恐れがある。

 フィーアもそのことに思い至り、直ぐに進言する。


「レオン様、この男たちは危険です。直ぐに殺した方がよろしいかと」

「殺すのはまだ早い。どうやって再詠唱時間リキャストタイムを無効化したのか調べる必要がある」

「この男から直接聞かれたらよろしいのでは?」

「聞いたが要領を得ないのだ。再詠唱時間リキャストタイムをまるで分かっていない」

「……レオン様、一旦拠点に戻り、この男たちから情報を集めては如何でしょうか?」

「いや、その前にやることがある。黒幕をどうにかしなくてはキリがない。簡単に諦めるとも思えんしな」

「黒幕ですか?」

「この国の公爵らしい。それより先ずは、この男たちの処遇だな。フィーアは少しの間ここで待っていろ。私は倒れている男たちを連れてくる」

「レオン様、そのような雑事は私にお任せ下さい」

「よいのか?」

「当然でございます。少々お待ちを、直ぐに連れてまいります」


 闇夜に消えていくフィーアを見送り、レオンは男の装備品を確かめるため手を伸ばした。


(確かマントに何らかの魔法が付与されていたな)


 男からマントを剥ぎ取り鑑定をして、そして思わず笑みが溢れる。


(おぉ!レベル42、同化カモフラージュマント。周囲の景色と同化する効果があるのか。確かにこれなら暗闇での視認は難しいな。しかも、その効果に制限時間が無いのも大きい。レベルの割にいいアイテムじゃないか)


 喜ぶレオンだがここである事に気付く。

 マントをインベントリに収納すると、腕組みをして静かに考え込んだ。


(ん?ちょっと待て?レベル42だと?……ヒュンフの話では男のレベルは25以下のはず。俺が戦った感触でもその程度に思えた。どんなに過大評価しても、レベル30には届かないだろう。……つまり、この世界の人間は同じ魔法が連続で使えて、更には、レベルに関係なくアイテムを装備できる?何だそのチートは……)



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