街⑩

 夜の大通りを歩いていると、二頭立ての豪奢な馬車がゆっくりと近づいてきた。

 御者は手綱を握りながら器用にランタンを持ち、何かを物色するように周囲を見渡している。

 その様子は人を探しているようにも見えるが、何処か不審な感じがした。

 違和感を覚えつつ、そのまま馬車をやり過ごそうと歩いていると、馬車はレオンの横で止まり、御者の男が口を開く。


「見ない顔ですね。旅の人ですか?」


 レオンは不意に話しかけられ戸惑うも、何も答えないのは失礼に当たる。

 馬車は外観から恐らく貴族のもの。無視をして騒ぎになりでもしたら目も当てられない。


「あぁ、各国を旅して回っている」

「そうですか、羨ましいですね。夜は危険ですので気をつけてください」

「そうか、気遣い感謝する」

「では、良い旅を」


 御者は笑顔でそう告げると馬を走らせた。

 馬車の小窓に掛かるカーテンが揺れ動き、微かに視線を感じたが、それは一瞬のこと。

 その時は気にも止めなかった。




 レオンらと別れた馬車では、30代と思しき男が甲高い笑い声を上げていた。

 御者席に繋がる小窓を開け、嬉しそうに御者に話しかける。


「ビストール、今度の女も中々綺麗ではないか?今ある玩具おもちゃはもう壊れかけているし、交換するには丁度良いだろ」

「シリウス様、もうお止めになりませんか……。お父上がご存命であれば、きっと悲しまれております」

「黙れ!貴様は誰のお陰で今の生活ができると思っている!大恩ある我が公爵家に逆らうと言うのか!」

「それは……」

「ふん!いつも通り男は殺して女はさらってこい!」

「……畏まりました」


 ビストールは頷くことしかできない。孤児だった自分を助けてくれた恩を返すためにも。

 それが間違っていると分かっていても、ビストールにはどうすることもできなかった……


 屋敷に戻ったシリウスは、久し振りに玩具おもちゃを寝室に呼び寄せた。

 それは若いメイドの少女。僅かな明かりが灯された寝室で、少女はシリウスの人形となる。

 逆らうことも泣き叫ぶことも許されない。ただ感情の持たぬ人形として扱われる。


「脱げ。お前の醜い体をさらして見せろ」


 少女は言われるがままメイド服を脱ぎ去る。

 顕になったのは白い肌ではない。至るところにアザがある赤黒い肌。

 酷い暴行を受けたであろうその肌は、所々が醜く腫れあがり、鞭で叩かれたようなミミズ腫れが全身を覆っている。

 シリウスは少女の全身を舐め回すように見ると、


「いつも通りだ。上手くやれなかったら――分かるな?」


 その言葉に少女の体が小刻みに震えた。

 少しでも不快にさせたら、待っているのは拷問という名の遊び。

 少女は震える唇で言葉を紡ぐ。


「ご奉仕させていただきます」


 ベッドに横になるシリウスに覆い被さり、その後は一心不乱に体を動かした。

 喜んでもらうため、自らの命が少しでも永らえるために……



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