街⑧
レオンは堪らず、歩きながら肉に
しかし、その表情は
(不味い……。なんだこの獣臭さは。香辛料や味付け、焼き加減は最高なのに、それを素材の肉が全部台無しにしている)
他の客の様子を覗うと、みな一様に美味しそうに頬張り、誰一人嫌な顔をしていない。
その驚愕の事実にレオンは肩を落とす。
(この世界では肉の臭みは当たり前なのか……。店主には悪いがこの肉は食べられない)
レオンは肉を捨てる場所がないか辺りを見渡すと、フィーアが物欲しそうにこちらを見ているのに気付いた。
手元の串肉をジッと見つめて視線を外そうとしない。
「フィーアも食べたいのか?美味しくないが――そんなに食べたいならもう一つ買ってこようか?」
「い、いえ、レオン様はその肉をどうなさるのかと思いまして」
「私はもう食べないから捨てるつもりでいる。だが、ゴミ箱らしき物が見当たらなくてな」
「では、私にいただけないでしょうか?」
「食べたいなら新しく買ってやるぞ?」
「そうではございません、それをいただきたいのです」
「ん?まぁ、捨てるのも勿体無いか。これで良いのであればお前にやろう。それと、
「畏まりました。それではいただきます」
フィーアは串肉を受け取り、レオンが齧り付いた場所を真剣な眼差しで見つめる。
喉をゴクリと鳴らして同じ場所に齧り付き――フィーアの唇は空をきった。
串肉はレオンが齧り付いた肉だけが、串ごと切り落とされなくなっている。
僅かに視線を逸らすと、口をもごもごと動かすヒュンフがレオンの影に溶け込んでいた。
こうなると犯人は一人しかしない。
「レオン様!ヒュンフが、ヒュンフがレオン様のお肉を横取りいたしました。許しがたい行為です!」
(えっ?肉がなんだって?)
切実に訴えるフィーアに、レオンが串肉を確認する。
確かに上の肉が一つ無くなってはいるが、その下にはまだ肉の塊が幾つも刺さっていた。
「肉の一つくらいよいではないか。他にも肉が刺さっているだろう、もっと食べたければ新しいのを買ってやる。そんなに落ち込むな」
「そういうことではないのです……」
フィーアはそう呟くと、大事な部分がなくなった串肉を悲しげに見つめ、残りの肉に僅かに齧り付いた。
その口からボソリと言葉が漏れる。
「美味しくない……」
「だからそう言っただろ?無理に食べることはない」
それでもフィーアは首を横に振り、黙々と食べ続ける。
自ら欲したことによる使命感であろうか。鬼気迫る表情に、何処か執念のようなものさえ感じられる。
レオンはフィーアを止めることもできず、ただ静かに見守ることしかできなかった。
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