街③

 「カラン、カラン」と心地よい音が部屋中に響き渡る。

 扉を開け、先ず最初に視界に入ったのは、正面の大きな掲示板。そこには、所狭しと依頼と思しき張り紙が張り出され、数人の男女が真剣に吟味を重ねていた。

 視線を僅かに左に逸らすと、長いカウンターが部屋を分断するように置かれ、その奥には受付と思われる女性が数人座っている。

 誰もが退屈そうにくつろぎ、中には頬杖をついている女性までいた。

 昼時という時間帯も関係しているのだろう。冒険者ギルドの中は閑散としいて活気がない。

 初めて見る客に受付の女性は好奇の視線を送り、依頼を選んでいた冒険者も横目で様子を覗っていた。


 レオンはそれらの視線を撥ね退け、真っ直ぐにカウンターを目指す。

 頬杖をついて欠伸あくびをしている、少し態度の悪い受付嬢の前で立ち止まると、女性は面倒くさそうに顔を顰めた。

 他が空いているだろうと言わんばかりに、隣の受付嬢を見やる。

 それからチラリと視線を戻すが、それでもレオンが動かないことから、女性は観念したように挨拶をしてきた。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご要件でしょうか?」


 少し気だるそうに挨拶をする女性に、レオンは僅かに笑みを浮かべた。


(やる気が感じられないなぁ。サラリーマン時代の俺と同じで、親近感すら感じるぞ……)


 どのようなご要件も何も、見たこともない新顔が冒険者ギルドでやる事は限られている。

 それは……


「依頼を頼みたい」


 まぁ、普通は依頼を頼む客だろう。

 受付嬢もそれを予期していたのか既に用紙を取り出していた。


「では、こちらに依頼者の名前と依頼内容、期限や報酬の金額も記入してください」

「すまないが、私たちは遠い異国から来たため文字が書けない。代わりに書いてくれないか?」


 すると女性はあからさまに嫌な顔をする。

 隣の受付嬢を見るが、「担当は貴方でしょ」と、首を横に振り取り合わない。

 やむなくレオンへと視線を戻し、わざと聞こえるように盛大に溜息を漏らしていた。

 余程仕事をしたくないのだろう。これには流石のレオンも苦笑いを浮かべる。

 それでも仕事はきちんとこなすようで、努めて丁寧に話しかけてきた。


「では、依頼者の名前をお伺いしてよろしいですか?」

「レオン・ガーデン」

「依頼内容を教えていただけますか?」

「近隣諸国の一般的な情報。それと、名の知れた強者の情報が欲しい」


 それは、この国の人間であれば誰でも知っていること、金を出してまで求める情報ではない。

 受付嬢も「はぁ?」と口を開け呆れるが、当のレオンは大真面目である。


(折角、金が手に入ったんだ。情報を買わない手はない。何よりこの手段が一番手っ取り早いからな)


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