街①

 そこかしこから威勢の良い声が聞こえてくる。

 喧騒の中、レオンは門番に渡された通行証に視線を落としていた。

 渡された羊皮紙には何やら書かれているが、見慣れぬ文字のため読むことができない。

 説明を聞いた限りでは、この通行証は一度きりのもので、街を出る際に門番に渡す必要があるとのこと。

 逆に言えば、この通行証を紛失した場合、容易に街から出られなくなる。

 尤も、レオンは転移テレボートの魔法が使えるため、一度行った場所であれば何処でも行き来自由なのだが……。

 レオンは通行証をまじまじと眺めては「う~ん」と、唸り声を上げる。


「予想はしていたが文字が分からないな。まぁ、言葉を理解できただけでも良しとするか。もし、言葉も通じなければ、身振り手振りで説明をする羽目になっていたからな」

「レオン様、解読の魔法で読めるのではないでしょうか?」


 フィーアに言われてレオンも(あっ!そう言えば……)と、心の中で呟いていた。

 本来であれば語学は一から学ばなければならない。しかし、幸いにもこの世界には魔法がある。文字を読むだけなら魔法で十分補うことが出来た。

 実際に読めるようになるかは不明であるが、それでも試す価値は十分にある。

 レオンは羊皮紙を片手に持ち魔法を試みた。


「[解読ディサイファー]」


 再び羊皮紙に視線を落とすと、今まで読めなかった文字が読めるようになっていた。

 書かれていた内容は日付と名前。そして、他国の人間であるという事だけ。実に簡単なことしか書かれていない。

 フィーアも魔法を唱えたのだろう。羊皮紙を覗き込み、吐き捨てるように呟いた。


「こんな紙切れ一枚で街に入れるとは、なんと愚かな……」

「そう言うな。我々にとっては好都合ではないか」

「も、申し訳ございません。その通りでございます」


 足を止め深々と頭を下げるフィーアに、レオンは眉間に皺を寄せる。

 今のレオンとフィーアは夫婦という間柄。それが、こんなに畏まっていては疑われるのは明白である。

 レオンは門番とのやり取りを思い出しげんなりする。本当に夫婦なのかと何度も問われ、おまけにフィーアが怒り出したりと散々であった。

 結局、最後は支配ドミネートの魔法で事なきを得たが、再詠唱時間リキャストタイムもあるため、頻繁に揉め事を起こされては対応できなくなる。


「フィーア、この街にいる間は、私のことをレオンと呼び捨てにしろ」

「何を仰っているのですか?レオン様を呼び捨てになど、できるわけがございません」

「私たちは夫婦ということになっている。妻が夫を呼ぶのにレオン様はないだろ?」

「確かに私とレオン様は、ふ、ふふ、夫婦でございます。では――だだ、旦那様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 顔を真っ赤にしながらどもるフィーアに、レオンは「旦那様?」と疑問を呈していた。


(昔の日本ではそう呼んでいた時代もあったらしいが、それだと夫と言うよりは店の主に聞こえるな。夫婦って感じがしないんだが……)


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