旅立ち⑬

 レオンは街までの道程みちのりを急ぐが、他の誰かとすれ違うことはない。

 不思議に思い、懐中時計を取り出し時間を確かめる。

 時計の針は6時を指し、出発してから然程さほど時間は経っていない。

 この世界の時間が地球と同じかは不明であるが、拠点を出てからおよそ1時間。陽が昇ると同時に出発したため、まだ早朝である。

 街までの距離を考慮すると、人を見かけなくても十分不思議ではなかった。先ほどの馬車は暗いうちに街を出たか、しくは近隣の村から出たことが窺える。

 レオンは時間を確認して納得すると、フィーアから受け取ったアイテムを取り出し鑑定を始めた。

 剣や鎧を取り出しては、その都度、落胆の溜息が漏れる。


(レベル10にも満たないとは、ガラクタ同然じゃないか……)


 レオンは気を取り直し、硬貨の入った袋を取り出し中身を確認した。

 恐らく商人の持ち物だろう。中に入っていたのは金貨と大量の銀貨、袋は大きく膨らみ手にはずっしりと重量感が感じられた。

 レオンは金貨を一枚取り出し翳してみる。

 それは、レジェンド・オブ・ダークで使用されている金貨とは全くの別物であった。

 異なる模様が描かれ大きさも僅かに違っている。


(ここはレジェンド・オブ・ダークと異なる世界。使用されている金貨も違っていて当然か……)


 レオンは金貨を仕舞うと、他の硬貨が入った袋も確かめる。

 それは、僅かな金貨と銀貨、そして大量の銅貨が入っている袋。硬貨の種類や量から、護衛の持ち物であろうことが窺えた。

 銀貨や銅貨も取り出して確かめるが、やはり見たことのない模様が描かれ、レオンの知る硬貨とは違っている。

 恐らく、貨幣価値も違うであろうことは容易に想像がつく。

 全ての確認が終わるとやる事もなくなり、景色を楽しみながら自然と歩みを早めていた。

 その甲斐あってか、一時間も歩く頃には、ぽつりぽつりとまばらに人影が見えてくる。否応がなしに街に近づいているのだと実感させられる。

 歩みを進めると更に人影は増え続け、そして、遂に街の外壁が姿を見せた。

 遠くから見ても大きさが伝わるほど巨大である。

 壁は左右に何処までも伸び、その高さは近くに生えている木々を優に超えていた。

 街をすっぽりと覆う石壁はまさに圧巻の一言。それは街に近づくにつれ徐々に大きくなり、遂には視界を覆い尽くすまでになる。

 レオンは巨大な門の前で立ち止まり空を見上げた。

 石造りのアーチ状の門は、空に架かるように悠然と佇んでいる。

 その壮大さに、思わず瞳を奪われ息を飲む。

 

(綺麗だ……)


 レオンのその思いとは裏腹に、門は古びた石造りで、見た目は決して綺麗とは言えない。

 しかし、無骨ながらも長年の時を経ているそれは、苔生こけむし一部が崩壊しても尚、その大きさと頑強な門構えから、レオンの心を虜にしていた。

 青空に溶け込む姿は、まさに古びた遺跡を彷彿ほうふつとさせている。そういう意味では美しく感じるのかもしれない。


 不意に足を止めたレオンにフィーアは首を傾げた。レオンと同じように空を見上げるが、またも不思議そうに首を傾げる。


「レオン様?どうかなされたのですか?」


(フィーアは何も感じないのか……。共感できないのは少し寂しいな)


「いや、何でもない。先を急ごう」


 門から街の中を覗くと、外に出る人で長蛇の列ができていた。一方、街の外で並ぶのはレオンたちを含めても僅か数人だけ。

 この時間帯は街から出る人は多くても、街に入る人は少ないのだろう。

 二人は殆ど待つこともなく門の中に通された。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



次回からやっと街の中です。


話が遅くてすみません。

粗茶は、ぱぁっと沢山の人をピーしたいのですが、(勿論、お話の中で。現実でピーしたら絶対ダメです)まだまだ先になりそうです。

あれ可笑しいな?放送禁止音を当てたら卑猥に聞こえる……


今後も読んでいただけたら幸いです。

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