旅立ち⑪

 レオンが思いにふけっていると背後から声が聞こえてくる。


「レオン様、ノエルを連れてまいりました」


 振り返ると、そこには頭を下げて一礼するフィーアと、恭しく跪いている少女の姿があった。

 命令を下してから1分も経っていない。拠点までは転移の魔法で一瞬とは言え、その余りの速さに驚きを隠せない。


(もう連れてきたのか?フィーアは随分と仕事が早いな。俺のサラリーマン時代とは大違いだ)


「ご苦労だったな」


 レオンはフィーアにそう告げると、紫髪の少女に視線を移した。


「ノエル、お前の力を借りるぞ」

「はっ!何なりとお申し付けください」


 召喚士サモナーのノエルは緊張した面持ちで頭を下げた。それと同時に、初めて偉大な主の役に立てることに歓喜に打ち震えていた。

 一度は必要ないと言われ、酷く落ち込んだ反動もあるのだろう。今は高鳴る鼓動を抑えられないほどに感極まっている。

 そんなノエルの異変にレオンも気付く。レオンの目から見ればノイルの状態はかんばしくない。

 息は荒く顔も赤い、体も小刻みに震えて今にも倒れそうに見える。


「ノエル、もしかして体調が悪いのか?」

「そのようなことはございません。寧ろ調子は良いくらいです」

「そ、そうか?では、サラマンダーを召喚してくれ」

「はっ!直ぐに召喚いたします」


 ノエルはすっと立ち上がると、後方を振り返り両手を前方にかざす。

 地面に魔法陣が現れ光り輝く中、ノエルの召喚が始まろうとしていた。


召喚サモン――」


 光は一層輝きを増し、魔法陣から浮かび上がるようにサラマンダーがその姿を現す。

 巨大な体躯に赤い鱗、口元からは鋭い牙が覗き、大地には頑強な爪が深々と突き刺さっている。

 呼吸をする度に炎が脈打ち牙の間から漏れ出していた。

 爬虫類のトカゲを何百倍にも大きくしたような外見から、通称火トカゲと呼ばれる炎の魔物がサラマンダーである。


 ノエルは召喚を終えると、レオンの元に振り返り再び跪いた。


「レオン様、サラマンダーを召喚いたしました」

「うむ。これはお前の支配下にあるのだな?」

「はっ!その通りでございます」

「では、このサラマンダーを長時間維持できるか?召喚を維持している間は常にMPを消費するからな。無理にとは言わないが、出来ることなら誰かに討伐されるまで維持してもらいたい。恐らく3日もあれば討伐されると思うのだが……」

「あのぉ~、レオン様?非常に申し上げにくいのですが、どうやらこの世界では召喚した魔物は完全に定着するようです」

「定着だと?」

「はい」

「どういう事だ?帰還しないということか?」

「その通りでございます。故に、召喚を維持するためにMPを消費することもございません」


(なにそれ?つまり無制限に召喚を維持できるってこと?召喚士サモナー最強じゃない?もしかして従者最強は召喚士サモナーのノエルと、悪魔召喚士デモンサモナーのメリッサになるんじゃないのか?序列が変わりそうで怖いんですけど……)


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