旅立ち⑨

「それよりもこの惨状だ。誰かに襲われたのか?」


 粉々になった馬車を見る限り、それなりの威力があるのは目に見えている。

 馬車の壊れ方を見ても魔物と考えるのは難がある。もしや、と、レオンの脳裏をプレイヤーの影が一瞬過ぎった。

 しかし、そう思ったのも束の間、フィーアから思わぬ言葉を聞かされる。


「先ほど放ったヒュンフの矢が当たったのでしょう」


(確かに矢はこの方角に飛んだが、矢が当たった程度で馬車が粉々になるのか?)


「それにしては随分と広範囲に破片が飛び散っているな。ヒュンフの矢は強力だが、当たっても貫くのではないか?」


 レオンの疑問は最もである。瓦礫や穀物は馬車を中心に放射状に広がっている。馬車で何かが爆発しなければこうはならない。

 その疑問にフィーアは微笑み返し、いとも簡単に解決してくれた。


「先ほどヒュンフが放った矢は破裂する矢バーストアローでございます。馬車程度であれば一撃で粉々になるでしょう」

「…………」


(そう言えば、あのとき遠くから爆発音が聞こえていたな……)


 レオンも納得する他ない。破裂する矢バーストアローば矢が当たった地点を中心に爆発を引き起こす。この惨状も頷けると言うもの。

 しかし、それだけに頭を抱えたくなる。目立たぬように行動するはずが、街に着く前から何をしてくれているんだと。

 ヒュンフとてわざと狙ったわけではない。それはレオンも十分承知している。

 あの時の矢は自分の行いをいさめるためのもの。ヒュンフに悪気は無いのは明らかであり、咎めることができるはずもない。

 レオンは死体を見渡し肩を落とす。


「流石にこのままでは不味いな。街に着く途中で誰かとすれ違えば、間違いなく私たちが疑われる」

透明化インビジブルの魔法で姿を消しては如何でしょうか?」

「いや、それでも危うい。例え誰にも気付かれずに街に侵入できたとしても、真っ先に他所者が疑われる恐れがある」

「それでは全員蘇生させると言うのは?」


 確かに何れは蘇生実験をしなくてはならない。しかし、もし生き返ったとしても、この状況を説明しようがなかった。

 真っ先に犯人扱いされてもおかしくないため、当然のように却下する。 

 

「馬鹿を言うな。蘇生させてこの惨状をどう説明するつもりだ」

「では如何いたしましょうか?」


 レオンは瓦礫と化した馬車を見つめて思いを巡らす。

 死体の半数以上が剣と鎧で武装していることから護衛と判断できる。それと身なりの良い商人と思われる男。

 一度に7人もの人間が消えたら騒ぎになるのは明白である。

 もし仮に、これから行く街の住民であったなら、その騒ぎに巻き込まれかねない。

 面倒事を避けるためにレオンが導き出した答えは、


(魔物に殺されたことにするのが一番無難だな……)


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