旅立ち⑧

 歩みを進め近づくと、はっきりとその様子が見えてくる。

 馬車は街道の端に横倒しになり粉々に破壊されていた。

 馬は息絶え、散乱した馬車の瓦礫に混じり多くの人間が倒れている。

 恐らく荷台に乗せていた荷物であろう。大量の穀物が周囲に散らばり足の踏み場もない。

 瓦礫や穀物を踏み越え、倒れている人間に近づくが、誰一人としてピクリとも動かず呼吸音もしない。

 よく見れば、馬車の破片が深々と体に突き刺さり顔から血の気は失せている。

 もう既に命の灯火は消え失せていた。


「酷い有様だな」


 倒れている人間からは、いまだ血液が流れ出ている。

 それが、死後それほど時間が経っていないことを表していた。

 倒れている死体は全部で7体。箇所は違うが、どれも馬車の破片と思しきものが突き刺さり絶命している。

 これほど多くの死体に直面するのは、レオンにとって初めての経験。

 しかし、レオンに動揺した様子はない。落ち着き払い周囲――いては自分――の状況を冷静に確認していた。


(魔物に襲われたか?いや、この状況だと馬車で何かが爆発したのかもしれない。それにしても、これだけの死体を見ても何も感じないとは。スキルを取得したことで、幾つかの感情を失った弊害か……)


 レオンも自分の変化には薄々気が付いていた。

 何気ない普段の生活では分からないが、今回のような非日常の下では、それをまざまざと思い知らされる。

 だが、これも自らが選んだこと、レオンに後悔はない。

 同じように死体を眺めていたフィーアが不思議そうに首を傾げていた。

 その様子にレオンは訝しげに尋ねる。


「どうかしたのか?」

「レオン様、この人間は再復活リスポーンしないのでしょうか?」


 フィーアにはレジェンド・オブ・ダークの知識しかない。

 ゲームの世界では、プレイヤーや従者が死んだ場合、死体は60秒その場に放置される。

 そして、その60秒の間に蘇生されなければ、自動的に拠点で再復活リスポーンする仕組みになっていた。

 ゆえに、人間の死体が放置されていることが不思議でならない。この人間たちには再復活リスポーンする拠点はないのかと、レオンに訪ねているのだ。

 レオンにもはっきりしたことは分からないが、ある程度の予想はつく。


「恐らくだが、この世界の住人には再復活リスポーンする場所、拠点と呼べるものが無いのだろうな」

「ですが、我々には拠点がございますが?」

「他の世界から来た私たちは操作盤コンソールを開くことができる。そこから拠点申請を行えるが、この世界の住人はそれが出来ないのだろう。抑、私たちとてこの世界では再復活リスポーンできない恐れもある」


 フィーアはそれを聞いて「なるほど」と、神妙な面持ちで頷き返していた。


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