旅立ち⑥

 レオンは二人に歩み寄り、ヒュンフの前におもむろに手をかざした。


「旅を続ける前に、ヒュンフの傷を癒す必要があるな。[回復ヒーリング]」


 瞬く間に傷はなくなり、握手で折れた骨も綺麗に治っていく。

 一方のフィーアは、事前に唱えていた肉体再生リジェネーターの魔法で既に傷は完治していた。

 長期戦になったら間違いなく勝つと言ったフィーアの言葉はあながち間違いではない。

 尤も、ヒュンフとてそれを理解している。もし、あのまま戦闘が続けられていたら、恐らく強力なスキルで早々に決着をつけていたに違いない。

 序盤に完璧な盾パーフェクトシールドを使わせた時点で、ヒュンフの勝ちは確定していたと言っても過言ではなかった。


 レオンはヒュンフの衣服を見て顔を顰める。そこにはべっとりと血液が付着し赤く染まっていた。


「ついでに衣服も綺麗にしておこう。[洗浄ウォッシュ]」


 付着していた血液が瞬時に消え失せる。

 綺麗になった衣服を見て、ヒュンフは直ぐに頭を下げた。


「レオン様ありがとうございます」

「よい。そんなことより痛くはないか?」

「はっ!もう痛みはございません」

「そうか。ところで、ヒュンフは痛くても戦えるのか?」

「痛みなど我慢すれば良いだけ、戦闘に支障はございません」

「そ、そうか、我慢か。フィーアも痛みは感じるのだろう。お前も問題なく戦えるのか?」

「当然でございます。痛み程度で戦えぬ者など、レオン様の従者には誰一人としておりません」

「……と、当然だな。つまらぬ事を聞いた。忘れてくれ」


(えぇ……、痛みに耐えるとか凄すぎない?我慢強いにも程があるだろ……)


 レオンは気を取り直し二人を見据えた。

 今後の争いを避けるためにも今回の件は叱らなければならない。内心溜息を吐きながら重い口を開いた。


「よく聞け!お前たちナンバーズは従者の手本となるべき存在!それが身内で争いなど、恥ずかしいと思え!」

「レオン様のご不快はごもっとも。どうか我々に罰をお与えください」

「私もこの首を差し出す覚悟はできております」


 フィーアとヒュンフの言葉にレオンは盛大に顔を顰める。


(阿呆かぁああ!!どうして直ぐに自殺したがるんだ!首なんて欲しいわけないだろ!)



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