旅立ち⑤

「馬鹿者!!何を勝手に戦っている!私が玉座の間で言ったことを忘れたのか!」

「しかしレオン様!ヒュンフはレオン様に矢を放ちました!許しがたい反逆行為です!」

「私がレオン様を狙ったかのように言うな!私はお前をレオン様から引き離そうとしただけ!レオン様を狙うわけがないだろ!」


 2人は互いに睨み合い視線を外すことはない。

 今にも相手に襲いかかろうとしていた。


(つまりあれか?ヒュンフは俺がセクハラをしているから、フィーアと引き離そうと矢を放ったわけだ。それをフィーアは俺を攻撃したと思い込み、ヒュンフが謀反を起こしたと勘違いしていると。はぁ……、まいったな。身勝手に異性の手を握るのは立派なセクハラだ。どう考えても全ての元凶は俺じゃないか……)


「いいから落ち着け!悪いのは私だ!お前たちが争うのは間違っている!」

「レオン様が悪い?何を仰っているのですか!悪いのはヒュンフです!」

「何を言っている!悪いのはフィーアだろ!」


(はぁ、らちが明かない。だが、いい加減に止めないと不味いな。蘇生実験もしていないのに、いま死なれたら本当に困る)


「いい加減にしろ!!私の言葉は絶対だ!これ以上続けるなら、私が力尽くで止めるぞ!」


 レオンの怒声に、フィーアとヒュンフは互いに視線を外した。


「も、申し訳ございません」

「お許しください」


 深々と頭を下げて謝罪する二人にレオンは首を傾げる。


(あれ?なんか違うな?謝るのは俺のはずなんだが……。まぁ、いいか。それよりも、今は二人の仲直りが先決だな)


「よし、では二人とも仲直りの握手をしろ。それでお前たちの争いは見なかったことにする」

「畏まりました!!」


 二人は返事をすると、互いに歩み寄り笑顔で握手を交わした。

 しかし、その表情とは裏腹に、手には尋常ならざる力が込められていた。

 純粋な筋力はヒュンフが上であるが、今のフィーアは肉体強化フィジカルブーストで身体能力を強化している。 結果、互いの力は拮抗し、ミシミシと骨が軋む音が聞こえていた。遂にはゴキっと骨が折れる音まで聞こえてくる。

 それでも互いに笑顔は崩さない。暫くすると何事もないかのように同時に手を離した。

 レオンは少し離れた場所から眺めていたため、互いの骨が折れる音までは聞こえていない。笑顔で握手を交わす二人の様子に、ほっと胸を撫で下ろしていた。


(大事にならなくて本当によかった。仲直りもできたことだし、これで一安心だな)


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