従者⑬

「フィーア、ヒュンフ、傍に来い。転移テレポートで洞窟入口まで移動する」


 選ばれず表情に影を落とす4人を尻目に、レオンは転移テレポートの魔法を唱えるべく、フィーアとヒュンフを呼び寄せる。

 フィーアとヒュンフはレオンの胸にもたれ掛ると、レオンは二人の腰に手を回して引き寄せた。

 その瞬間、「ミシ」っと、大気が軋むような不快な音が耳に飛び込んでくる。4人から放たれた殺気に、フィーアとヒュンフは思わずビクッと体を震わせた。

 レオンは恐怖に対する耐性を持っているため何も感じないが、それでも二人の変化や圧迫するような視線を受け、アインスたちから殺気が放たれたのは直ぐに理解できた。

 殺気の元凶に恐る恐る視線を向けると、そこにはいつも通り笑みを浮かべる4人の姿があった。

 しかし、その顔は笑ってはいるが、目は死んだ魚のように虚空を見つめ焦点があっていない。

 大きく見開いた瞳は血走り、眼球は絶えず小刻みに揺れ動いていた。


(怖っ!選ばれなかったかくらいで、そこまで怒ることないだろ……。いや、ちょっと待てよ。よく考えてみたら半年も拠点から出ていないんだ。外に出たい気持ちは当然か……)


「そうか、お前たちもそんなに外に出たかったのか。気付いてやれなくてすまなかったな」


 途端に4人の表情が満面の笑みになり、アインスが喜びの声を上げる。


「私たちのお気持ちに気付いてくれたのですね」


(やはりそうか。拠点内に人工太陽があるとは言え外には出たいよな)


「うむ。他の従者も外に出ることを許す。但し、拠点から遠くに離れるなよ。それと、必ず三人以上で行動するのを忘れるな。レベル120のレイドが出ないとも限らない。十分注意するんだぞ」


 同行を許されたと思っていた4人は想定外の言葉に呆然となる。

 レオンはそんな4人の表情に気付くこともなく「では、行ってくる」と、一言告げて転移テレポートの魔法を発動させた。

 4人は何も言えない。消え去る様子を嫉妬混じりの視線で見送ることしかできなかった。


 レオンたちが立ち去った後、寝室に残された4人は一向に動こうとしない。

 目の前にあるのはレオンのベッド。4人は互いに牽制し合うように横目で動向を覗っていた。


「貴方たち早く持ち場に戻りなさい」

「アインス何を言っている。私はレオン様の執事、ここが私の持ち場だ」

「メイドの私もレオン様の寝室が持ち場です」

「レオン様が戻るまでこの寝室は私が守る」


 4人は誰一人動こうとしない。誰もが隙あらばレオンのベッドに飛び込もうとしていた。

 これをレオンが知ったなら、きっと頭を抱えながら「なんでだよ!」と、突っ込みを入れていたに違いない。

 女性従者たちの譲れない戦いが新たに幕を開けようとしていた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回からやっと外出です。

話が無駄に長くてすみません。

今後も読んでいただけたら幸いです。


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