従者⑩

 後に残ったのはナンバーズとアーサーのみである。

 アーサーはいつものように、玉座の後方にあるレオンの居住区へと続く扉の前で佇む。

 残りのナンバーズは、みな一箇所に集まり何やら相談事をしていた。


「さて、護衛は必要ないにしても、レオン様の身の回りのお世話をする従者は必要よね」


 アインスの言葉に、その場にいた全員が首を縦に振る。


「むさ苦しい男は除外すべき。レオン様のお世話は女性の役目」

「ツヴァイの言う通りだ。ここは執事である私が担当しよう」

「アハトずるいです。レオン様のお世話はメイドである私が行います」


 そんな不毛な言い争いが続く中、不意にクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 自ずと声の方に視線が集まる。その視線の先では一人の女性が口元を手で覆い上品に笑い声を上げていた。

 女性の名はフィーア、ドイツ語で数字の4を意味する。

 フィーアは見目麗しい若い女性で回復魔法のエキスパートである。

 長く艶めく水色の髪に大きな碧眼、愛嬌のある顔立ちで見るものを虜にするような美貌を兼ね備えていた。

 身に纏うのは真っ白なローブ、手には金属の杖を持ち、その先端には大きな宝石が嵌められている。

 真っ直ぐに伸びる水色の髪を揺らしながら、クスクスと面白そうに笑うフィーアにアインスが睨みを利かせた。


「なにがそんなに可笑おかしいのかしら?」

「だって、レオン様のお世話係は私に決まっているでしょ?私はレオン様のお世話をするために創り出されたのよ。それなのに無駄な相談をしているから、つい可笑しくて」


 確かにフィーアは創り出される際に世話好きのお姉さんという設定にされていた。そのことを他の従者たちも知っている。だからといって世話係を譲るような従者はここにはいない。当然のように反対の声が上がる。


「レオン様のお世話係は可愛い私の努め。おばさんの出る幕じゃないわ」

「ちびっ子のツヴァイにレオン様のお世話は務まらない。やはりここは執事の私が最も相応しい」

「何を言ってるんですか!レオン様のお世話係はメイドの私が適任です」

「ちょっと!みんな勝手なことを言わないで!レオン様のお傍に最も相応しいのは従者統括の私よ!」


 同行が決まっているヒュンフは一人余裕でそんな5人のやり取りを退屈そうに眺めていた。

 そこで、あることに気付く。


(あれ?ツェーンが話に参加していない?)

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