従者⑧

 その様子を傍で見ていた一人の男が深い溜息を漏らす。

 男の名はゼクス、その名はドイツ語の6を意味する。

 真っ黒な漆黒の髪に燃えるような赤い瞳、身の丈は高く、細っそりとした引き締まった体つきをしていた。

 オールバックにした髪に切れ長の目、整った容姿であるが、その顔立ちは何処か神経質にも見える。

 真っ白なスーツに身を包み、胸元には黒いネクタイを締めている。両手に嵌められた黒い革の手袋が、白いスーツと相まって、より一層際立って見えた。

 しかし、その派手な見かけとは裏腹に、礼儀にうるさく忠義に厚い。

 そんなゼクスが二人のやり取りに痺れを切らせたのは必然と言えよう。


「いい加減にしないか!レオン様のお言葉を忘れたわけではあるまい!我々は恐れ多くも偉大なる主、レオン様が創り出した従者!それが主の命もなく殺し合いなど恥を知れ!」


 その言葉で二人はやっと互いに視線を外した。

 アインスがおどけたようにゼクスに話しかける。


「本気で殺し合いをするわけがないでしょ?ねぇ、ツヴァイ」

「全くその通り。ゼクスは考えすぎ」


 二人の殺気が消えたことで、間に入っていたドライはホッと胸を撫で下ろす。

 序列1位と2位のいざこざに、他の従者たちは肩を竦め呆れていた。尤も、その中にはアインス同様、床を汚した者もいる。本来であれば他人事ひとごとではない。しかし、突然の騒ぎに、みな一様にそのことを忘れ傍観していた。

 ドライは汚れた床を見渡し肩を落とす。深い溜息を漏らした後、二人の女性へと交互に視線を向けた。


「ノイン、アハト、お前たちの魔法で床を綺麗にしてくれ。このままではレオン様のお叱りを受ける」


 ゼクスの視線の先では、紺のショートヘアに紺色の瞳をした女性が佇んでいた。

 名前はドイツ語の8を意味するアハト。

 女性でありながら執事服を身に纏う見目麗しい男装の麗人である。その格好から分かるように、レオン専属の執事であり、護衛も兼ねている。

 取得している職業は家令スチュワードは勿論のこと、多くのことに対応できるように、戦闘職から生産職まで幅広い職業を有していた。


 ゼクスが僅かに視線を下げると、アハトの股間部分が大きく濡れていることに「お前もか……」と、思わず顔を手で覆いたくなる。

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