従者⑦

 一方の玉座の間では従者たちがようやく立ち上がっていた。

 隣で息を荒げるアインスにツヴァイがボソリと呟く。


「変態」


 アインスは横目でギロリとツヴァイを睨みつける。


「それ私に言ってるの?」

「股間を濡らして息を荒げてる馬鹿のことを言ってる」


 ツヴァイは抑揚のない声でそう告げると、半眼でアインスの足元に視線を落とす。

 そこには小さな水溜りがあり、そこから女性特有の生物臭が漂っていた。

 しかも、それはアインスだけではない。女性従者の半数以上が同じような状態になっている。

 至る所から匂いが立ち込め、玉座の間に充満しつつあった。

 アインスは憐れむような眼差しでツヴァイを見つめる。


「ツヴァイは子供だからレオン様の魅力が分からないのね。あれ程の力を受けて感じることもできないなんて、可哀想に……」

「レオン様は最高に素敵なご主人様。それを何処かのビッチがけがれた目で見るのが許せない」


 途端にアインスの額に青筋が走る。


「言わせておけば、このクソガキがぁぁぁぁああああああああ!!誰がビッチだぁぁあああ!!」

「やる気?私に勝てると思ってるの?ブチ殺すわよ」

「上等だぁ!やってみろやぁあ!魔法職のお前がぁああ!この至近距離でいい気になってんじゃねぇぞぉぉおおおお!!」

「ほんと下品、こんなのが序列1位だなんて信じられない。今すぐ消し炭にしてあげる」


 二人は互いに睨み合い一触即発の状態。

 流石に不味いと思ったのか、他の従者が間に割って入った。

 最初に動いたのは銀髪碧眼の偉丈夫。

 ドイツ語で3を意味するドライである。

 困ったように短い髪をガシガシときながら二人の間に割って入る。

 全身鎧フルプレートを身に纏うドライは防御に特化しており、この場の誰よりも仲裁の適任者に見えた。

 しかしながらドライは極端なまでに無口である。

 間に入り必死で両手を広げて落ち着くように促すも、二人の睨み合いが収まることはない。

 終いには、二人の間でおろおろするばかりである。

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