従者④

 レオンは跪く白髪の老人に視線を向けた。

 その顔には数多くの皺が刻まれ、顎からは長い髭を蓄えていた。真っ白な髪は長く伸ばされ地面に横たわっている。

 品の良さそうな老人の物腰とは裏腹に、体は細いながらも鍛え上げられ、しっかりと筋肉がついていた。

 背筋も真っ直ぐに伸び、齢い70を超える肉体とは思えないほどである。

 身に纏うのは上質な白いローブ、傍らには捻くれた木の杖を置いていた。


「ガリレオ、ここから一番近い街は何処にある?」


 視線を向けられていた白髪の老人は、恭しく顔を上げて口を開いた。


「少々遠くにございます。ここから真っ直ぐ北へ60キロ行かれますと街道がございます。そこから街道沿いに東へ20キロの場所に街はございます」

「少し距離はあるが飛行フライの魔法なら直ぐだな。先ずはその街で情報収集を行う。それと、街に入るのに1000体も戦乙女ヴァルキリーを引き連れていては目立つ。召喚は必要ない」


 初めての晴れ舞台が無くなったと知るや、召喚士のノエルはがっくりと肩を落とす。

 しかし、アインスにとっては些細なこと。さして気にする様子もなくレオンの言葉に頷いた。


「畏まりました。それでは、我々ナンバーズとアーサーだけ同行いたします」


 確かに万全を期すならそれくらいは必要だろう。しかし、それは嘗ての話。今のレオンはレベル200、誰かを守ることはあっても、守られることはまずない。

 それに、人数が多ければ多いほど、それだけ懸念材料が増えるのは目に見えていた。


(他のプレイヤーがいるかもしれないのに目立つのは不味い。同行者は必要最小限に抑える必要がある。特にガチャの従者であるアーサーは絶対に駄目だ。ここにプレイヤーがいるぞと教えているようなものだ)


「アインス、他のプレイヤーがいるかもしれない。彼らが我々に危害を加えないとも限らない」

「では、戦闘に優れた従者全員でレオン様の護衛に当たります」


(え?いや、そうじゃなくて、目立たないように最小限の人数で行動したいんだよ……)


「いや、そうではない。目立たぬよう私一人で行動する。私の補佐役としてヒュンフには陰から支援してもらう」


 従者たちは瞳を大きく見開き驚愕の表情を見せた。

 供回りを連れず一人で行動させるなど危険極まりないこと。そんなことを従者たちが簡単に許すはずもない。

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