従者②

 聞きたいことは山ほどあるが、先ずは理不尽なことを平然と告げるアインスを叱る必要があった。

 あの調子では他の従者が耐えかねて裏切る恐れもある。レオンが思い描く主従関係がいつ崩壊しないとも限らない。


「アインス!自分のミスを他人に押し付けるな!従者統括として恥ずかしいと思え!」


 アインスの体がビクッと大きく震えた。

 恐怖で強張るアインスの姿がレオンの瞳に映る。そこには気丈ないつもの姿は何処にもない。幼い子供のように肩を震わせ瞳の端に大粒の涙を貯めていた。


(レオン様に嫌われた……。これ以上生きていてはレオン様を不快にさせてしまう……)


 アインスはレオンの顔を覗き込むようにして言葉を絞り出す。


「レオン様をご不快にしたことは許しがたい罪。この命で償わせていただきます」


(はぁ?)


 レオンが何のことだと首を傾げていると、何処からともなくアインスが短剣を取り出し握り締めていた。


(え?嘘だろ!?ちょっと待てぇぇええええ!!)


 次の瞬間、アインスは力の限り自分の喉元に短剣を突き刺した。

 いや、突き刺さるはずであった。

 レオンはレベル200のステータスを駆使して寸前のところで短剣を受け止めていた。


(あっ、あっぶねぇ……。何なんだ……。俺の従者は自殺願望者しかいないのか?) 


 アインスが涙目で不思議そうにレオンのことを見つめていた。

 まさかレオンが助けるとは微塵も思っていなかったのだろう。どうして?と言いたげにジッとレオンの瞳を覗き込む。

 一方のレオンはと言えば、アインスの突拍子しもない行動にふつふつと怒りが込み上げていた。

 まだ蘇生実験もしていないのに勝手に死なれては目も当てられない。

 レオンは声を荒らげてアインスを睨んだ。


「アインス!何を馬鹿なことをしている!」

「レオン様をご不快にさせるなど従者統括として失格。これ以上、レオン様のお傍にいることはできません。この命を持って償うのが最善と判断いたしました」


(いや、なんでだよ!普通に謝ればいいだけだろ?いきなり命を絶つとか頭おかしいだろ!)

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