隠密③

 透明シースルーマントに身を包み踵を返して立ち去る三人。

 その後ろ姿にレオンは僅かに眉を顰めた。


(フレッドからは敬意を感じられたが、他の二人はどうなんだろう……。今のところ従者たちは俺の言うことに従ってくれている。裏切りはないと信じたいが――やっぱり不安だ。霞は俯いて顔を合わせようとしなかったし、もしかして嫌われてるのかな……)


 三人が玉座の間を出ると、急に霞が息を荒げて股を摺り合わせていた。


(レオン様が、レオン様が私を見てくれた。やばい、格好いい、どうしよう……。もう死んでもいい。あぁ……、レオン様、レオン様、レオン様……)


 股間に指を這わせる霞を見てフレッドとノワールがギョッとする。

 正確には外套に覆われ見えないのだが、二人とも何をしているのかは気配で感じ取っていた。

 その場で立ち止まり動こうとしない霞に、二人は言葉を発することもできずに唯々ただただ互いの顔を見合わせ行為が終わるのを静かに待つしかなかった。

 暫くすると、霞は「ふぅ」と息を吐いて、何事もなかったかのように移動を開始する。その表情は凛――すっきり――としていて、いつもの表情に戻っていた。

 急かすように先頭を駆ける霞に、フレッドとノワールは呆れ返るばかりである。

 霞は自分の行為が気付かれていないと思っているのか、それとも何も言うなと無言で訴えているのか、二人とは顔を合わせようともしない。

 そんな霞の態度に、フレッドとノワールは溜息を漏らさずにはいられなかった。


 レオンの心配は杞憂に終わる。

 霞は忠誠心や愛情が振り切っているだけ、少し恥ずかしがり屋の頭のおかしな子でしかなかった。

 当然、裏切りなど皆無であり、心配するだけ無駄であった。


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