ガチャ①

 それから1ヶ月、魔物に襲われることもなく拠点も順調に拡大していった。

 レオンの寝室も洞窟内に移り、安全面の上でも格段に向上していた。今は洞窟内の広大な空間で沙羅双樹の苗木を育てている最中である。

 沙羅双樹の苗木は希少であったが、レベル100のプレイヤーであれば簡単に手に入れることができた。何せ低確率ではあるが、レベル100の雑魚敵から苗木がドロップするのだから。

 レオンはその敵が落とす更にレアなアイテム、神樹の枝を手に入れるため、その敵を狩りまくっていた時期があった。

 そのため沙羅双樹の苗木を大量に所持していたのだ。

 但し、苗木から育てなければならないため、木材にするまでに手間暇がかかる。

 そのため、育成や生産を楽しむプレイヤー以外からは見向きもされないアイテムであった。

 だが、沙羅双樹は希少な木材というだけあり、強度は高く見た目も美しい。

 しかも、腐敗防止、劣化防止の効果も付与されていることから、生産系のプレイヤーからは重宝されている木材でもある。


 レオンは苗木が順調に生育していると報告を受けて次の一手を考えていた。


(さて、苗木はあと数週間で木材になるだろう。そうすれば、この殺風景な部屋も少しはマシになるはずだ)


 レオンの部屋はかなり広いが、内装が施されていない味気ない部屋であった。

 苗木は魔法的生育法を併用した場合、1ヶ月ほどで建材として加工できるまでに成長する。

 従者のアハトとノインは、生育系の職業も取得しているため、苗木の育成は滞りない。しかし、苗木の生育に人材を取られた分、拠点の拡張は予定よりも大幅に遅れていた。


 魔物も襲ってこないため、レオンは洞窟の入口で警戒に当たる従者を減らすことも考えていた。それでも、今度はその従者を働かせる場所がなかった。

 例え拠点の拡張作業に回したとしても、戦闘職しか取得していない従者では、役に立たないのは目に見えていたからだ。

 そこで、レオンは一計を案じる。メニュー画面を開き、そこからガチャの項目を選択した。

 レオンの考えとは、生産系の従者をガチャで引き当てることだ。

 従者の出せる数には限りがあるため、今いる戦闘系の従者と入れ替えることで、拠点の拡張速度を引き上げようと考えていた。

 幸いにもガチャで引き当てた従者は、オリジナルの職業が既にマスタークラスであるため、即戦力として期待が持てた。

 尤も、ガチャの従者は毎月増え続けて今では36人もいるため、その中から欲しい従者を引き当てるのは至難の業であった。

 レオンはすんなりとガチャの画面が表示されたことに苦笑いを浮かべる。


(本当に訳が分からないな。ゲームの世界じゃないはずなのに、ゲーム同様ガチャの画面が表示されるんだから……)


 4周年アニバーサリーの文字とともに、画面には2台のガチャが表示されていた。

 所謂いわゆるお金を入れてノブを回す、昔懐かしいタイプのガチャである。今では全てが電子マネーのやり取りで、この手のガチャの現物は骨董品扱いされていた。

 レオンは2台のガチャのうち、迷わず人形ドールガチャを選ぶ。目玉として4周年記念に実装された従者、キングアーサーがガチャの横に表示されていた。


(4周年アニバーサリー……。アップデートは完了していたのか。今頃みんなレイド討伐をしているのかもしれない。俺がフォルトゥーナの指輪リング・オブ・フォルトゥーナを持ってるせいで困ってるだろうな。みんなに会いたい、せめてこの指輪だけでも返したい……)


 レオンは左手に嵌められた指輪を見て目頭が熱くなる。

 しかし、レオン自身この世界から出ることが出来ないのに、幾ら考えたところで返す手立てが見つかるわけもない。

 今はどうすることもできないと自らに言い聞かせ、レオンは仲間への思いを打ち払った。


(感傷に浸ってる場合じゃない。今の俺にはやることがある。俺に従ってくれる従者たちが安全に暮らせる場所、先ずはそれを作らなければ)


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