異変⑨
レオンは自室の椅子に座り部屋の中を見渡す。
従者のいるスペースも考慮され部屋は幾つかあるが立派とは言い難い。部屋には窓もなく必要最低限の家財道具しか置かれていなかった。
何より守りが不安である。ゲームであった頃ならば、個人の拠点に許可もなく誰かが侵入するなど有り得ないことであり、魔物が入り込むなど考えられないことであった。
しかし、この世界はゲームとは違う。ヒュンフがコボルトを連れ込んだように、拠点内に魔物はいとも簡単に侵入してくる。
それらのことを改善するため、レオンは目の前で跪く従者たちに命令を下す。
「ツヴァイ、ドライ、フィーア、ヒュンフ、ゼクス、戦闘職を取得しているお前たちには拠点の防衛に当たってもらう。いいか、絶対に拠点の外には出るな。拠点内に入った魔物を確実に殺すだけでいい。それと、高レベルの魔物が侵入した際には直ぐに私に知らせるのだ」
「はっ!一命に代えても任務を全ういたします」
番号がそのまま序列になっているため、代表してツヴァイがレオンに返答した。
ツヴァイは攻撃魔法職ばかりを取得している魔女っ子である。
レオンは外見重視のため、コタツのように年齢を高く設定していない。
寧ろその逆、最低年齢の10歳に設定していた。
ツヴァイはピンクダイヤのように輝く美しい桃色の髪をツインテールで纏め後ろに流していた。
幼い体には不釣合いな大きな杖を持ち、ゴスロリ風の可愛らしいローブに身を包んでいる。
その幼い体とは裏腹に、サファイヤのような大きな碧眼からは強い意志が感じられた。
(一命に代えてもっていうのは余計だな……。蘇生できるか分からない以上死なれたら困る)
レオンのそんな思いなど露知らず、ツヴァイたちは意気揚々と外へ出ていった。
その後ろ姿を見送り、レオンは僅かに肩を落としながら残りの従者たちに視線を移す。
「そう言えばアインス、お前は先ほど天空城を散策中に、と言っていたな。その時の記憶があるのか?」
「はい、ございます」
「他の者たちもか?」
レオンの言葉に残りの4人も同意するように頷いた。
その反応を見てレオンは天空城の光景を思い浮かべていた。
レジェンド・オブ・ダークにおいて、ギルドに入れるプレイヤーの数は最大50人であった。ギルドの拠点に出せる従者は一人10人まで、そのため最大で500人の従者が拠点内を闊歩していた。
プレイヤーを含めると総勢550人のアバターで天空城はいつも賑わっており、その様子は圧巻の一言では言い表せないほどであった。
その光景がもう見られなくなるのかと思うとレオンは目頭が熱くなる。
だが、直ぐに現実に立ち返り従者たちに向き直った。今はやるべきことをやらなければならない。感傷に浸るには早過ぎると自分に言い聞かせる。
レオンは跪く従者を見据えながら今後の指示を出した。
「そうか記憶があるのか……。お前たち5人には新たな拠点作りを行ってもらう。この建物の裏にある岩肌に洞窟を掘り、そこを新たな拠点とする。作る施設は天空城を知っているなら分かるな?それと、拠点の内装を作る際に木材も必要になるが、周囲の森を伐採するのはリスクを伴うため許可できない。幸い私は
「はい、仰る通りでございます」
「よし、木材が増えるまで内装は必要ない。本当は黒曜石のような美しい素材で内装を仕上げたいのだが……、今は贅沢は言ってられないからな。ズィーベン、お前は私の従者の中で唯一
「はっ!レオン様のご期待に添えるよう全力を尽くします」
主に期待されていることにズィーベンは胸を高鳴らせた。
ドワーフのズィーベンは高齢の男性でありながら、筋肉の隆起した引き締まった体をしていた。白髪混じりのブラウンの髪はオールバックに整えられ、顔を覆うような髭は綺麗に手入れがされていた。厳つい顔付きでいかにも職人といった風貌をしている。
焦げ茶色の厚手の作業服を着用し、腰からは大工道具を下げているが、それらは立派な防具であり武器でもあった。
「細かなことはアインスの指示で動けば問題はないだろう。では、早速作業に取り掛かるがいい」
「はっ!お任せ下さい」
アインスの声に他の4人も頭を下げ部屋を出ていった。
(ふぅ、何とかなったかな?みんな今は俺の言うことを聞いてくれている。だが、感情や意思があるならいつ裏切らないとも限らない。先ずは俺が上位者として振る舞い、失望されないようにしないとな)
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