異変⑦


 暫くすると、レオンは茂みの奥から気配を感じて目を凝らした。

 少し遅れて従者たちもレオンを取り囲むように動き出す。


「遅くなりました。申し訳ございません」


 茂みの中から現れたのは魔物を片手に持ったヒュンフであった。

 魔物はコボルト、茶色の毛色から下位のソルジャークラスであることが窺える。

 コボルトは体が麻痺して動けないらしく、微かに体を痙攣させ、口から泡を吹いていた。

 レオンは訝しげにヒュンフの持つコボルトを見つめる。問題は何故、魔物を持ち運べているかだ。

 レオンはまたも訳の分からぬ状況に頭を抱えたくなる。


(コボルト?コボルトを麻痺させるのは分かる。だが、魔物を麻痺させて持ち運ぶ機能はレジェンド・オブ・ダークにはない。どうなっているんだ……)


 レオンは内心焦りつつも冷静を装いヒュンフに労いの言葉をかけた。


「ご苦労。そのコボルトは麻痺しているようだが……、よく運べたな?」


 ヒュンフはどう説明しようか戸惑っていた。

 しかし、言葉に出すよりも実際に見せた方が早いと行動に移す。


「レオン様これをご覧下さい」


 そう告げると、ヒュンフはコボルトの首に短剣を振り下ろした。

 コボルトソルジャーはレベル6の弱い魔物、頭が胴体から簡単に切り落とされる。

 同時に首から血飛沫ちしぶきが溢れ出し、地面を赤く染め上げた。


「な、なんだこれは?」


 突然の出来事にレオンは呆然となる。


(どういう事だ?レジェンド・オブ・ダークは15歳以上対象のゲーム、魔物は血を流したりはしない。そんな過剰な演出は認められていない。それに、殺された魔物は本来消えてなくなり死体は残らないはずだ)


 周囲には鼻を突くような血の匂いが立ち込め、これがゲームではなく現実であるとまざまざと見せ付けられた。


(それにこの血の匂い。レジェンド・オブ・ダークには匂いなんてなかった。これはもう間違いない。ここはゲームの中とは違う現実の世界だ)


 ヒュンフはレオンに自分の体験したことを話し始める。


「魔物を数体殺したのですが、どれも同じように死体は消えず、アイテムも落としませんでした。他に殺した魔物はオーガ、ライカンスロープ、サイクロプス、どれもソルジャークラスです」


 レオンは俯き瞳を細めると、虚空を見つめて暫しの間考え込んだ。


(どれもレベル20以下の弱い魔物か……。だが、偶々たまたま弱い魔物に遭遇しただけかもしれない。レベル100の魔物に出くわしたら従者たちに勝ち目はない。早急に手を打たなければ)


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