4−07/魔王様、クララちゃんに飲まれる
ずい、と見せるスマホ画面。
——そこに燦然と輝く表示は、マジッターアカウントギルメン五桁数という偉業だ。
これは、本アカで四桁の壁を打ち破れずに往生してきた666大魔王ヴィングラウドにとって、想像することさえ出来なかったマジで未知の
「え、ええんかな、これ。こう言っちゃなんだけど、余、本アカで魔王ムーブしとった時より遥かにがんばっとらんのよ……?」
「なんと。しかし、魔導大陸ディパメナイアを無一文で横断しようなど、人間的に考えてみれば相当に至難であると思いますが」
「いや、そこはほらさ、一応余って、魔王じゃん? 下積み時代は結構しんどいメニューでスキル上げしとったし……」
歴代魔王が使ってきた由緒正しいレベリングスポット【無明の荒野】は、様々な危険生物が生息場所の別を超えてランダムにポップする次元のねじれた場所である。レベル1のスライムが出たと思えば、次には絶滅したはずの隠しモンスター・DDティラノが無造作に現れるような生態系も何もあったものではない土地で生き抜いたヴィングラウドは、凄まじい生存能力を有していたのだ。
あまりに他の魔族がいない空間で経験値稼ぎしすぎたおかげで、精神的ないじられ耐性は気の毒なくらいに落ちたのだが!
「クララちゃん」
「はい、モカP」
「いいですか。人気とは、必ずしも——味わった苦労と比例する、わけではないのです」
その発言の意外さたるや。
これまで“食らったダメージ=経験値”とさえ考えているフシのあったクララ、ヴィングラウドにとって、容易に呑みこめるものではなかった。
「混沌たる人間界に於いて、一体何が、どのようにして
彼は、いや、百妖元帥ズモカッタは言う。
この世は全て——夢幻の如く、捉えどころなき、不確定の箱なのだと。
「こうすれば売れる、受ける、支持を得る……そういう“手がかり”は確かに、時代によってあるのでしょう。ただ、本当のヒットとは、その先から産まれる。自分たちの想像を超えた、思いもよらなかった、拡と波及——どのようなきっかけでもいい、“奇跡”こそが、欠かせない」
「
「お喜びください、新人ネットアイドル・クララちゃん様。予想外であれ、理解不能であれ、確かなことがここにはひとつ。——貴女が掴んだものは、偶然であれど、必然だ。他でもない、自身の手で培っていた
——言葉を受けて、改めて。
魔王であり今は少女でもある彼女は、マジッターの
【999rara がんばれクララちゃん! 毒蛇竜ガゴルギギア】
【999rara 待ってました! 更新乙! ぺん太くん】
【999rara 最近は毎日、これがあるから仕事がんばれてる 王立騎士団匿名団長】
【999rara 見てるだけでこっちまで旅に出たくなってくる キース@まちのどうぐや】
【999rara 現代の人間界に必要だったもの 辺境の土精霊】
「————
思わず漏れた感想こそが、ある種、全てを表している。
旅を始め、人気を勝ち得たクララ・ウィンウッドには、もう、ほとんど、熱心に探さないと見つからないくらいに飛んでこない——例のやつが。
——かつて、この身が魔王であった時。あれほど悩まされ、苦しまされ、怒りと戸惑いに身を捩った、そう——
「———クソリプが、こんなにも、遠い……」
何もかもが、変わった。
——長らく大っぴらに・正式には断絶されていた魔界と人間界。バリバリ密航なので検問で怪しまれない程度の荷物しか持ち込めなかった不安要素まみれの二人旅だったというのに、現状は、何不自由すらもない。
食材となる魔物などを狩りつつの旅、素材は通常の売値よりも高く引き取ってもらえた。
素晴らしきは
「知らなかったよ、ズモカッタ……いや、モカP。これが……人気を得る、ということなのだな……」
思わず口をついて出る、魔王とは思えない言葉。
迂闊といえよう。
こういうときばっかり世界は、凄まじい公平性を発揮するというのに。
即ち、
「ッんまっふ!?」
フラグを立てたら、オチがダッシュで訪れる。
荷馬車が突如、激しい嘶きと共に急停止。ヴィングラウドが倒れ込み「鼻打ったぁ!」と半泣き声を上げたのち、
「うぅぅっ、な、な、いったい何事かっ!?」
「——おやおや」
身を屈めたままでいるように、と仕草で示したズモカッタが確認したのは、
「ふむ。野盗の一味、ですか。平和な人間界、脅威は魔界にいる魔族だけ、とはいきませんなあ」
馬車の主が「いへえええぇええやああ!?」と腰の抜けた悲鳴を上げている。
その驚きも致し方ない。こんな近くまで、十人はいる集団に囲まれるまで気付かなかったのは、その見事な擬態が故だ。
草の中に身を潜め、また、その中に溶け込むよう、全身に泥で草を張り付け化粧をして隠れていた。
——しかも、その周囲の葉先の動きを見るに、どうやら連中、風魔法を自分の周囲に張り巡らせ、疑似的に風下にいるような状態を創り出していたらしい。実にまた、念の入った気配の消し方だ。
人間にしてはやるものだと、魔王様の目も思わず尖る。
「慣れた手際ではないか。……ああ、そういえば」
ひとつ前に立ち寄った町、水を買った酒場で、壁に貼られた手配書を思い出す。
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