3−16/魔王様、プレイエリア外など存在しない
2Dから3Dになったとはいえ、ゲームのルール事態は変わらない。内容も、勝利条件も同じだ。
しかも、忘れてはならない。
これはあくまで【魔王キャッスルバトル】であり。
プレイヤーは、落とす場所の調整以外に、“やれること”がひとつある。
『ちょ、だ、ダメダメダメダメ、やめてそれなしズモカッタっ! あ、あ、あんま回さないでぇっ……!』
溢れる涙声。
厚みを得たことで増したゲーム性が、阿鼻叫喚をもたらすほうに機能した。
たとえば、素敵なスカートの魔王様がいる。
たとえば、凛々しいビキニの魔王様がいる。
たとえば、際どい
それらはゲームに勝利する為、回転操作が行われることで——時に、その禁断の領域を、本来決して衆目につかざる、ついてはならない場所までも、嗚呼、不可抗力で、まるっと見えてしまうアングルになることがあってしまう。
仕方がない。
どうしようもない。
魔界には【プレイエリアの外です】などといった結界聖地は存在しない。
しかも、魔王の魔力で作られた分身は、極めて精巧でその感触も本人に極めて近い……造形の輪郭のみならず、肌も柔らかく艶やかで、クオリティは本物の肉体と同じといってよい。
尻も。
胸も。
マルチアングル、見えまくり、揺れまくり、寄りまくり。
『ううぃひぐぅ、あっぐぅうううう……!』
今回の罰ゲーム終了条件は、何敗してもいい、ヴィングラウドの一勝。動画も撮影せねばならず、集中しきれないズモカッタに、たった一度勝ちさえすればそれで終わる。
けれど、だとしても、それ以上のハンデが彼女にはある。
史上初の3D魔王キャッスルバトル、鍵を握るのは細やかな魔力調整、リアルタイム操作の制度だが、出来る限り、自分のアレやコレをシークレットにしておきたいヴィングラウドは、特に鍵となる“回転”を自ずから制限されている。
今の状況、彼女にとっては、自分で型を取った超絶精巧な人形を三百六十度から確認されているに等しく、分身だとか本人がされてるわけじゃないとかの理屈などまったくもって通用しない。
『緊張してるね。大丈夫? こういうのはじめて?』
『むぶぁっ、や、やっかましいわズモカッタぁ……! よ、よく、よくもこんなえげつない罰ゲーム考えよってばかばかあくま、その妙な口調なんかぞくぞくするからやめろぉっ……!』
忠臣、冷酷無比なる
『実は、これ今、さっきから、ズームとかしてるの。わかる? 魔王様のね、ほらあれ、あのドレス着た複製のすっごい可愛い笑顔とか、普通の人間が見れない、勇者でも見れないような部分、普通じっくり見れない部分も寄って寄って、ばっちり、記録してあげてるから』
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!』
最早、ゲームどころではなくなった。
本来の魔王キャッスルバトルで培ったヴィングラウドのテクニックは乱れに乱れ、実力の一分も発揮できず、操作ミスが繰り返される。
試合回数を重ねれば重ねるごとに、本来見られたくなかった、隠しておきたかった、自分から企画に乗って解放したとはいえ、本来なら威厳ある魔王として絶対に知られてはならなかった、魔王を目指すと決めた際に封印した秘密——【人間界問わず魔界問わず、色々なそうびに身を包んでみるのが趣味】という、魔王にあるまじき乙女の一面が、様々な
『こうして見ると、おそろしい魔王なんて誰も信じないんじゃないかな? ただのかわいい女の子で、色んな人に愛される、とびっきりに魅力的な普通の子に見えちゃうよ、見えちゃってるよ——』
————その、一言が。
あらかじめ決められた、台本通りの物だったのか。
それとも、色取り取りの少女魔王の百面相、そのあふれ出る
視聴者にはわからない。
わかるのは、それが——
『————————————————余はッ!』
彼女にとって。
どんなバッド・ステータスも、マイナス・コンディションも跳ね返す、スイッチであったこと。
譲れない、使命であったこと。
『カワイイも、魅力的も、とうの昔に、捨てさったッ! 今、此処に居るのは——人間界を、絶望の淵に叩き落す、666代魔王——ヴィングラウドだぁぁあああぁあぁああッ!』
覇気が、集中が、勝負を引っ繰り返す。
調子を戻したヴィングラウドは、それまでとは比べ物にならないテクニックで自分を操り、自分自身のあらゆる箇所をプレイエリア内とすることを厭わず、
『————流石です、陛下』
忠臣、告げる。
ズモカッタの操作したヴィングラウド(まちむすめのふく/素朴に髪を掻き上げ笑うポーズ)は——ヴィングラウド(まおうのふくプロト/腕組みをして仁王立ちで笑うポーズ)の上でバランスを崩し、落ちていく。
『どのような逆境に落ちようと、罠に掛かろうと、最後には、折れぬ意志で勝利を手繰る。それでこそ、我が主、魔王の歴史の最先端に立つ御方です』
『っは、はっはっはっはっはっはっはっはっは————ハァッッッッ!!!!』
気合、一閃。
高らかな笑いの後、その手から放たれた光弾、凄まじき闇の魔力の塊が、忌々しき自分の似姿共を、廃城ごと消し飛ばす。
爆発と共に抜け目なく現れる『※解体予定の廃城を使用しました。』のテロップ、魔王としての力の一端を示したヴィングラウドはおもむろにカメラ目線になると、
『視聴者諸君! この通り、今回の罰ゲーム[666代魔王が、リアルで魔王キャッスルバトル(全部余)やってみた]、見事克服、突破である! これからもこの666代魔王ヴィングラウドの活躍をその眼に焼け付けたき者、魔王軍の傘下に加わりたき者あらば、是非、こちらのボタンでチャンネル登録をして
ポンと画面に出現するデフォルメヴィングラウドの顔のマーク、【登録!】の文字。
『それから、余の活動をリアルタイムで確認すべく、マジッターのギルメン申請のほうも忘れずにせよ! 来るものは拒まぬ、魔王とは寛大であるゆえにな! ではまた次の動画や企画で会おうぞ! シーユー・ネクスト・パンデモニウム! わーーーーっははははははははははははっ!』
『あ、今回の罰ゲーム動画で使用いたしました1/1ヴィングラウド
『は?』
まったく聞いてない、という様子で、ガチな素の表情に戻ったヴィングラウドの顔のズームを最後に、ゲーム実況おまけ動画——【罰ゲーム】[666代魔王が、リアルで魔王キャッスルバトル(全部余)やってみた]【見ないで】は終わった。
莫大な魔力、魔界の支配権というアドバンテージを生かした、まさに魔王にのみ撮れる映像企画。
これだけのものを見せられた人間界は、人類には、もはやひとつの言葉しか許さなかった————
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