3−15/魔王様、多種多様のスキンが実装されております



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 くだんの、動画。

 その最後には、666代魔王ヴィングラウドのMaha Tubeチャンネル登録をお願いする文章と共に、こうして告知が添えられていた。


【 魔王キャッスルバトル挑戦失敗の罰ゲーム、その内容は近日公開! 】

 

 要した時間は四日。

 内訳は、動画の反応を見るのに一日。これまでと打って変わったクリーンな芸風を見せたことで寄せられたクソリプに魔王様がまんまと奮起することに一日。魔王より魔王を知り尽くした四天王、百妖元帥ズモカッタがじっくりとある選別を行うのに一日。

 

 四日目の夜に、その日撮影したものを急ピッチで編集した動画が、666代魔王ヴィングラウド・マジッターアカウントからの告知と共に、MahoTubeへアップロードされた。

 タイトルは、こうだ。



【罰ゲーム】[666代魔王が、リアルで魔王キャッスルバトル(全部余)やってみた]【見ないで】



 内容全部この時点で言っている。

 サムネからしてシュール極まる。


『っえ〜はいども〜! 見とるか人間界〜! 元気か人類〜! 余の許可無く、勝手に絶望したり諦めたりしとらんな!? そういうの魔王の仕事だから、余の計画以外での絶望禁止な! 666代魔王ヴィングラウドである! 今日もまた、なれらを最終的にどん底に突き落とす為に一回楽しませるからそのつもりで!』


 右下に現れるテロップ、【※ロケ地、魔界某所、某廃魔王城】の文字通り、小高い丘の上から、荒れ果てた廃城を見下ろす遠景が映し出されている。

 

『今回は、前の動画の挑戦でパッ……父上のせいでえらい幕切れになった魔王キャッスルバトルの罰ゲームとして、スタジオを飛び出したわけであるな! ロケだぞ、ロケ!』


 ワイプの中、1.5倍速で流される敗北シーン。ヴィングラウドも怒り心頭、『もう知らん絶対二度とパパって呼ばない』と徹底攻撃の意志を示している。魔王は本気だ。


『さて、今回はスタッフも、カメラマン兼AD兼製作総指揮のモカPしかおらんので、ちゃっちゃと行こうと思うちゃっちゃと! はい、題して——[666代魔王が、リアルで魔王キャッスルバトル(全部余)やってみた]ーーーーッ!」


 ぅぅぅぅぅううううイエーーーイ! と拳を突き上げぴょんぴょん跳ねて盛大に盛り上げようとする魔王(単体・軍勢抜きのテロップ)。 


『まあこれどういうことかと言いますと、そうよな、あれこれ説明するより一回見てもらった方が早いであろ! ではゆくぞ————ゲームスタート!』


 丘の上、一人きりのヴィングラウドが、廃王城を指差して……その爪の先が、光りだす。

 すると、どうだ。


 廃王城の上空、開かれたワープゲートから、落ちてくる。

 魔王が。

 人間界の知名度が無さ過ぎて、正式な魔王だと思われていなくて——魔王キャッスルバトルには登場しなかった、666代魔王ヴィングラウドが!


『あれは余が魔力で生み出した分身で、ざっくり言うと等身大フィギュアなんじゃけど! これをまあ、あらかじめ沢山ストックしとるので、ゲートで持ってきて、積みます! ひたすら積みます! 魔界で、魔王城で、リアル魔王で、キャッスルバトルします! 対戦相手はそう、この動画を撮っとる、我が忠臣にして四天王にして前回の動画で敗北を叩きつけてくだすった、ズモカッタ! ヘイッ! 対よろズモズモッ!』


 動画の中に移ってくるカメラマンの手と、指先に灯るワープゲート精製の光と、【666代魔王ヴィングラウドさん対戦よろしくお願いします】のテロップ。


『おらぁー! なぁにが魔王のことより魔王知っとるじゃ! さすがになあ、この魔王だけは、余のことだけは余の方が知っとるからこれ勝つっしょぉーっ! 何せ、落ちてくるのは、余だけなのだからなぁっ! ふっはははははははっ!』

 

(全部余)のタイトルにたがわない。

 あっちを見てもヴィングラウド、こっちを見てもヴィングラウド、初手ヴィングラウドに返しのヴィングラウド、ヴィングラウドの上にヴィングラウドが重なり、ヴィングラウドで城が出来る。ヴィングラウドにヴィングラウドが引っかかって、遥か下へと落ちていく。


 絵面は、クッソ凄まじくありえないほどシュール。一発ネタとして申し分ない。

 ——だが。

 これは果たして、どう“罰ゲーム”なのかと問われたならば。

 それには、こう言うしかないだろう。


【見ればわかる】と。


『————ぅ、ぅうっ、』


 最初、あんなにも意気揚々だったヴィングラウドの口数が、徐々に減る。


『ぁ、っあ、あぅぅぅ……っ』


 魔王然としていた表情が次第に、羞恥に染まり、視線が散乱し、落ち着きがなくなる。

 それもそのはず。無理もない。


 何しろ——


『む、無理ぃ、み、みみみっ、やっぱ見れない、恥ずかしくて……!』


 ワープゲートを通ってランダムに落ちてくる様々な複製ヴィングラウドは、すべて、別々のコスチュームを着ている。

 ファッション誌に乗るようなキメキメのものから——年頃の女の子でさえ着るのに勇気がいりそうな、フリル満載カワイイ系まで。


 一体として同じ服のヴィングラウドはなく、更に、各々の服にマッチしたポーズを決めた、骨の冠と闇の衣を脱いだ休日オフモードの魔王様が、空から、無尽に、落ちてくる——

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