1−05/魔王様、とプラス24人の魔王たち
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「百妖元帥ズモカッタよ」
「はっ。666代魔王ヴィングラウド陛下」
「なにこれ」
玉座の間のスクリーンに映し出されているのは、先ほどズモカッタがまとめ、魔王ヴィングラウド非公開リストにて管理されている、二十と四のアカウントであった。
それらはアイコンもプロフィールも、方向性もギルメン数も様々であるが、ひとつ、共通することがある。
全ての名前に【魔王】が付き。
そして、マジッター上にて、そのように振る舞っていた。
「申し上げます」
「申してみよ」
「これらは、【なりきりアカウント】というものでございます」
「なりきりアカウント」
「マジッター上にて架空のキャラクターを、さも実際に存在しているかのように演じ、そのロールプレイを楽しむという高尚な娯楽でございます」
「架空のキャラクター」
「ちなみに魔王様」
「ちなむがよい」
「魔王様はこの中で、一番の新参であり、最もギルメンがおりません。更には、魔王なりきりアカウントウォッチを趣味とする同好の士の中では、【キャラの創り込みが甘い】と非難を受けております」
魔王城玉座の間に、永遠とも思える長さの、深い溜息が吐き出された。
「我が言葉を聞け、百妖元帥ズモカッタ。魔界一の賢智を持つ者」
「拝聴致しましょう」
「これおかしくない?」
心の底から、全身全霊、これまで自分が培ってきた知識、常識、理想、理念、矜持、拘り、誇りの全てを賭けて乗せて注ぎこんで、666代魔王ヴィングラウドは首をかしげた。
「魔王になりきるって、何? 何の得があるの? 嫌じゃないの? 魔王って言ったら、人類の大敵で、怨敵で、天敵だよ? 余だったら絶対、死んでも、人間のフリとかしたくないんだけど? ねえ、あいつら、おかしくない?」
「はい、おかしいです」
主からの疑問に対し、百妖元帥ズモカッタは、それはそれは力強く頷いた。あまりの断言にヴィングラウドは口を開けて固まった。
「魔王様、よく聞いてください」
「はい」
「人類は、人間界は、おかしいんです」
「こっわぁ……」
ガチのトーンで声が出た。
玉座で腰を浮かせるぐらいに魔王が引いた。
「なにそれ……そんな連中、そんなとこ征服しようとしとったの歴代魔王……」
魔王ヴィングラウドは本音で恐れた。人間界に生まれなくてよかったと涙ぐむほど安堵した。
「そもそもなんじゃよ二十四人の魔王って……そいつらが全員本気出せばいっぺんに人間界陥落するんと違うんか……そこらのツッコミはどうなっとるじゃ実際……」
「そこはそれ、彼らもうまいことやるもので、本来なら万物を焼き尽くす火炎を放てるが今は魔界で先代魔王との継承決戦による傷を療養中だとか、他の魔王を名乗る者は偽者なのでこの高貴な血筋が共闘など認められぬし人間界征圧など月夜の狂気を操る魔力の前には一人で十分とかの理屈を用意するのです」
「ウッソじゃろ……マジかよ……なにそのいらん強がりにデタラメな自信……万物を燃やす炎とか狂気を操る魔力とかそんな頼もしいことこの上ない能力持つ奴が仲間になってくれるんなら、余は菓子折り持って三度でも四度でも頭下げに行く所存なんじゃけど……四天王のうち二人は実際にそれでスカウトしたんじゃけど……」
ついでにいうならパパにはムスメを強引に追い払うような強気もありませんでしたヘッポコでした傷一つ負わされませんでした、と両手で顔を覆う魔王(本物)。
その様たるや悲惨の一語、哀れ魔王はこのまま萎縮し、縮こまり、その心、志も半ばで散った数多の魔王と同じところへ消え去ってしまうかと思われた。
「…………るか」
否。
違う。
ここが違う、これが違う――モノが違う。
666代魔王ヴィングラウド。
彼女は、人間界の余りのヤバさに心折れ、責任に潰され、逃げた親を追うほどに、
「この程度でヘコんでられるかーーーーッ!」
歴代でもトップクラスに、【魔王をやる気】で溢れている。
骨の冠を戴き、闇の衣を纏い、その目が野望に燃えている。
「余は誰だ! そう、666代魔王ヴィングランドだ! そんじょそこらのニセモノとは何が違う!? おうとも! それは、王の資格を、王の条件を、確かに満たしていることだ! つまり――決してひとりではなく! 頼りがいのある四天王がいるということに他ならぬ! そうだな、我が右腕よ! 百代の魔王に仕えし、四天王中の四天王、忠臣中の忠臣、百妖元帥ズモカッタ!」
「貴女様に、そのように呼ばれること。これぞ、臣下の誉れにございます」
「うむ! ならば出せ! 策を出せ! この現状、居並びし不届き者、畏れ多くも魔王を名乗る偽者を一網打尽にしてのける、神算鬼謀の一手を授けよ、魔の賢者よ!」
「では魔王様、今すぐ
「おまえまでクソリプか?」
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