1−04/魔王様、驚愕の真実を知る



 魔王の手元でスマホが揺れる。

 画面上部に窓が出る。


「あの、ズモカッタ」

「どうなさいました」

「めっちゃ来るんじゃけど。想定外のが」


 鳴り止まじ通知の

 先程告知した【ソッコ草原丸焼き予告】に関して、クラーケン浮上の如き勢いで押し寄せてくる怒涛の返信。


【リプラス】はマジッターの機能のひとつであり、誰かの発言に対し直接の返信を送る、コミュニケーションのより円滑で密接な繋がりを叶える素敵なものだ。

 ――しかし。設計思想がどうあれ、使用者が必ずしも、それに沿うとは限らない。


 毒が薬になるように。

 薬も毒に成り代わる。


「ほんっと、何なん、人類!?」


 毎度毎度丁寧律儀に、かつ的確に戯言を飛ばしてくるお馴染みの痴れ者レギュラーバカ・【勇者アレン】など氷山の一角に過ぎない。


 堰を切ったように雪崩れ込んでくる、的外れの反応、無関係の質問、意味を読み取れない一言、誰も聞いてない自分語り、煽り用画像。


 改めて見てみよう。

 今回の魔王の侵略計画発表、『いえーい ソッコ丸焼き、おまえら大泣き』に対する反応を一部抜粋すると、



【@666vin 王宮騎士団に通報した  減量ケンタウロスマニア】

【@666vin ソッコとかどうでもいいんでソッコー忘れた  ダイレクトマーマンショッピング】

【@666vin GMギルメン外から失礼します。この季節のソッコ草原は青々とした葉が茂り火が燃え広がりにくく、御社の提唱成された計画は実現性を欠いています。一度、現実を考え直されてはいかがでしょうか  まものつかいよしだ】

【@666vin ごめんなさい、それ昨日ちょうど自分が焼き終えたばっかりなんですよ  北国生まれのイフリート】

【@666vin グリーンスライムとイエロースライムとレッドスライムを同じ籠で飼ってると何色スライムが生まれると思う?  PIGE】



「おっフォ」


 あまりの瘴気に、魔王がうめいた。

 飲み干せないほど、えげつなかった。


「魔王はね、そりゃあね、代々しきたりとして習わしとして、骨の冠に闇の衣、混沌と絶望のオーラを纏うのが決まりだよ? でもね、こういうのは種別が違わない? 穢れと汚れは意味合いが別って言いますか、邪悪ってひとくちに言ってもそこには貴賤があると思うし、魔界中の大抵の毒沼には肩まで浸かった経験があるんだけど、こういうタイプのは、余、なんか肌が合わなくて……」


 個々の力は弱くとも、それぞれの意思は儚くとも、集まり、合わさり、偉業を成す。

 誰知ろう。誰も知るまい。まさか、それぞれが個別に、取り立てて団結の意識も無く、好き勝手に飛ばしたクソのようなリプラスにより、強大な力を持つ魔王をこうも弱らせているなどと。

 残虐・残酷・無慈悲・邪悪の代名詞にして頂点たる存在が、打たれる側になってしまえば結構ナイーブであるという残念な真実を。


「そんな、そんな無粋なことはしないよ? でもさ、こいつら、考えないの? 余が本気出したら、も、征服計画とか度外視して、マジッターのルール無視して私情に走ったら、だよ? どこがとは言わないけどね? いいの? こわくないの? 誰かにクソリプ飛ばす時、ポパられちゃったらどうしようって思わないで生きてるやつおる?」

「それは簡単です、魔王様」

「え?」

「そもそもの問題として、クソリプ飛ばしてくる輩、全員、魔王様のこと本物の魔王だと思っていないので」

「え?」


 百妖元帥に告げられし――予測というにはあまりにも確信的に告げられた事実に対し、魔王ヴィングラウドはひたすらに困惑する。


「なっ、は、あ、ま、ほ、……本物の魔王だと、思われてない?」

「畏れながら」

「余、魔王だよ?」

「存じ上げております」

「これ、この冠に、この衣、代々魔王の血筋に伝わる秘宝で、魔王だけが装備できる魔王の証で」

「存じ上げております」

「うちの、うちのパパから、やっとの思いで取り返して、そんで、大々的に継承式までやって、あんな盛り上がってたし、みんなむっちゃテンション高かったし」

「存じ上げております」

「そりゃ魔界の中だけの盛り上がりだったって言われたらそれだけかもしれんけど! それにしたって! 魔王だと思われんってのはあんまりでは!」

「落ち着いて聞いてください魔王様」

「何か!」

「現在、」

「現在!?」


「マジッター上に、魔王は二十五人おります」



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