1−02/魔王様、これまでのあらすじ
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時は、
向かぬ責務に疲れ果て隠居という名の失踪を行い、魔界の方々を逃げ回り隠れ続けていた先代を見つけ出して資格となる紋章をムリヤリに継承、新たに魔王へ即位した直系の娘ヴィングラウドは、百年間滞っていた人間界への侵攻、世界征服の再開へと乗り出した。
しかしながら。
長き平和は人々の心から脅威の記憶を取り除くに十分で、人間界における活動力の源である【魔族に対する負の感情】は枯渇寸前となってしまっていた。
のっけから立ち塞がったこの大問題、解決する為の作を授けし者こそは、これまで百代の魔王に仕えた四天王中の四天王、百妖元帥ズモカッタであった。
魔界一知略に優れし参謀曰く、
『絶望に恐怖、人々が御身の脅威を知らぬとあらば――報せてやればよいのです。それも、この玉座にありながら、魔力さえも使わぬままに』
魔族が言うのも滑稽だが、それこそ理想というものだ。
【それが出来れば苦労は無い、そんなことが出来るはずがない】と笑い飛ばされる絵空事こそ理想と呼ぶ。
そして。
そのような【有り得ぬこと】をこそたちどころに叶える幻を用いるが故に、彼は【百妖元帥】の位を持つ。
『魔王ヴィングラウド陛下。恐れながら、“マジッター”というものをご存知でしょうか』
かの百妖元帥の賢智には、さしもの魔王といえど及びもつかない。
尋ねたところによれば、【マジッター】とは、十年ほど前に人間界の賢者ギルドが生み出したシステムであり、それは、種族問わず国問わず、万人が自らの言葉を140字ほどの短文で発信、それらを共有し、相互に受け取り合う大魔術であるらしい。
『これらは本来、自身の些細な日常や情報を外界に送り、分かち合う為のコミュニケーション・ツールであり、世界中不特定多数との通信、及び関係の構築を可能たらしめるマジッターは、当初の賢者ギルドが想定していた使用方法を越えて世に利益をもたらし、近年では【まさしく世界の垣根を取り払い人々の心を混じり合わさせる発明であった】と連合国にて表彰を受けたほどであります』
そのあたりで意図が読めた。
女魔王は、忠臣の促す悪心にほくそ笑む。
『毒が薬になるように、薬も転じて毒となる。――人類が、人類を幸福にせんが為生み出した発明によって滅びの道を歩まされる時、嗚呼、その甘美さたるや、如何ほどのものでありましょう』
そうして、至急手筈は整えられた。
何もかもがあり、またどのようにしているのかがまったく窺えぬ方法で届くことから【密林】と呼称される魔界の物品調達輸送組織の手により、魔王城にはその日のうちのお急ぎ便で、人間共がマジッターの活用のみならず、数々の魔術機能を一般の民衆が使う為の携帯用魔法端末【スマルトフォ】(略称を、開発者の愛称から取ってスマホと呼ぶ)の最新機種が運ばれた。
『では陛下、始めると致しましょう。突き付けてやろうではありませんか。
悪戦苦闘の初期設定で夜が明けて、魔界の空に陽が昇る。
全身を包む疲労も、いよいよの開演を前にいっそ心地よく、666代魔王ヴィングラウドは、昂揚に震える手でスマホの画面をタップした。
そうして、人間界の黄昏が幕を開ける。
情報発信・個人体験つぶやきツール、マジッター。
端末と連動し、魔王城玉座の間の巨大スクリーンに映し出された、そのホーム画面には、こうある。
【666代魔王ヴィングラウド @666vin】
【魔王です。好きなもの→恐怖と絶望。嫌いなもの→調子にのった人類。人間界征服計画を発信していくので、ギルド・リマジット・ブレイブお願いいたします! 人間界滅びの速報を人類全体で共有しよう!】
【現在地:幻夢魔城ガランアギト】
かくして、魔王による【人類危機情報発信を装った恐怖・絶望の発生・拡大・蔓延策戦】がスタートし。
アカウントのアイコンは人類に屈辱を与える為の、玉座でのウィンク舌出し横ピース自撮り画であった。
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