666代魔王様はSNSのバズりを通じて人間界征服を目論む魔王様
殻半ひよこ
第一章 魔王ヴィングラウドのSNSデビュー
1−01/魔王様、朝一のクソリプを浴びる
そこは遥かな時と空間の彼方に潜む、禍々しき悪の巣窟最深部。
骨の冠と闇の衣を纏った、幼さの片鱗を残す少女が尊大に腰掛けた椅子こそは、選ばれし者のみが座ることを許される、魔王の玉座である。
細く長い四肢、きめ細やかな肌、金の長髪は獲物を求む蛇が如くに艶やかで、皇位を証明する
ふいに上げられた手、たおやかな指が鳴った。
音を合図とし、どこからともなく広間に現れた無数の蝙蝠が、玉座の前に集う。それは程なくして、数多の輪郭を混じり合わせ、一人の男へと変ずる。
皺一つ無い、悪という悪で染め上げたような光を吸う黒の燕尾服。手に持つステッキが独特のリズムで床を五度鳴らしたのは古式に則る騒乱祈願の作法、遠い昔人間界を席巻した嵐と石の魔王が用いた呪詛の儀式を模したもの。
道化の面を被りながら態度は一切の礼を欠かず、男は恭しく、目の前の少女へと傅いた。
「おはようございます、666代魔王ヴィングラウド陛下」
「やあおはよう、四天王の長にして我が親愛なる右腕、百妖元帥ズモカッタ。本日もはりきって、忌々しき人類共を混沌と絶望に叩き落とそうではないか」
「はっ。ご立派、まったくご立派なその意欲、ズモカッタひたすらに感動の極み」
「ではさっそく」
「はいさっそく、まずは情報の発信といきましょう。魔王様、本日の第一手は?」
「決めておる。昨夜、寝る間を惜しんで考えた。――南西大陸ノノモ王国、その補給を支える要、ソッコ草原に火を放つ!」
「なんと。さすが魔王様、このズモカッタすら震え上がらずにはいられぬ恐ろしく的確な計略、お見逸れいたしました」
「ふは、ふはははははは。血も涙もなき汝にそう言われるならば、人間どもは耐えきれず、その恐怖だけで命を落とすやもしれぬな。ではズモカッタ、やるがよい!」
「御心のままに、魔王ヴィングラウド様。では、いつものようによろしいですか」
「うむ。くるしうない」
女魔王はおもむろに立ち上がり、手書きの禍々しき地図をポケットから取り出すとウィンクをしながら舌を出す。
その威容を、ズモカッタは「はいスカル」と手に持った魔動念写機能付き魔法端末で撮影し、そのままネットワークにアクセスする。
そこに写っている画面は、魔王城玉座の間天井から下がってくるスクリーンにも連動して表示されていた。
「文面はいかがなさいますか」
「『いえーい ソッコ丸焼き、おまえら大泣き』」
「なんたる呪詛濃度。歴戦の大神官でも解呪不可能。では、アップ」
ぴろん、と通知の音を立て、魔王ヴィングラウドの禍々しき写真と呪詛の乗ったメッセージが、人間世界を蹂躙せんと投稿される。
震えよ人類。
怯えよ愚物。
魔王ヴィングラウド、ここにあり。
とくと聞かせよ、絶望を――!
「お」
一分も経たぬうちに、魔法端末が通知を知らせる。
その意味は、
「魔王様、来ました。人間共のリアクションです」
「ククク――見せよ!」
果たして。
人類戦線維持の前線、その弱点を突くと予告された者たちが魔王に返す言葉とは、
【@666vin もっとアヘ顔で言ってくれ 勇者アレン@はがねのつるぎ装備中】
「んクソリプッッッッッッッッ!!!!」
今日も今日とて玉座の間に、魔王の悲痛な叫びが轟いた。
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