第5話春の歌
目を覚ました。
風にそよぐカーテンで窓が開いている事を感じる。
なんだかとても新しい風が吹いている。
寝返りを打とうとする体は重く、何度かもがきようやく違う景色を見る事ができた。
しばらくすると沢山の大人が入れ替わり立ち替わりやってきた。
慌てる女性、話しかける男性、泣く女性…
またしばらくし何処かへと出掛けた。
車に揺られ着いた場所は、懐かしいような新しいような、ホッとするようなソワソワするようなそんな感じだった。
僕の場所だよと案内された部屋で座る。
窓を開けると鳥の鳴き声が聞こえた。
風にそよぐカーテン。
部屋を物色し、自分が古川修一だという事を知った。
すると先ほどの女性は母親なのだろう。
何日か経ち、1人で出歩いて見ることにした。
家の近くにある公園。
平日だからか人はあまりいない。
ベンチに座り周りを見渡す。
ズミの木には桃色の蕾がなっている。
そういえば何でズミの木を知っているのだろう。
あの桃色の蕾、いずれ白く花咲く木を僕はよく知っている。
日差しはとても気持ちがよく、夢の中へと誘う。そしてうとうととした辺りでまだ冷たい風が突然背中を押すように僕を現実へと引き戻す。
空はあの頃のままだった。
帰ろう。
帰りながら僕は歌った。
春の歌。
とてもとても懐かしい歌だ。
とてもとても大切な歌。
そして1人で歌う歌。
部屋に戻ると風にそよぐカーテン。
僕は昔のように窓際で歌う、その大切な歌を。
揺れるカーテンに映る君のシルエットを眺めながら一緒に歌うのが好きだった。
今度こそ君のところへ行くよ。
春の歌口ずさみながら。
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